医療あれこれ

サルコペニア肥満は認知症になりやすい

 以前にご紹介したように、サルコペニアは年齢とともに筋肉量が低下して筋力低下が明らかになってくる状態です。疾患概念としては日本では比較的新しいものですが、高齢者においては筋力低下が転倒などの危険因子となり注意を要します。一方、肥満になった身体では脂肪分は増加するものの筋肉量は減少し、サルコペニアと同様の状態になると考えることができます。高齢者においてサルコペニアと診断できる状態に加えて、肥満が合併するとよりリスクを伴う状態となることが想定され、これがサルコペニア肥満と呼ばれるものです。

 一方で、高齢者のケアにおいて認知機能の低下は常に念頭におくべき課題であることはいうまでもありません。そこでサルコペニア肥満におちいった高齢者において認知症発症リスクがあるかどうか検討することを目的として、高齢者を対象としてサルコペニア、肥満、認知機能の関係性が調査され結果が公表されました。

(Somea Y. et al Clin Nutriti  41 (5) 1046-1051, May 01 2022)

 調査・研究をおこなったのは順天堂大学のスポーツ健康科学部、代謝内分泌内科学の研究グループです。対象は65歳~84歳の男女1615例で、身長と体重からBMI(肥満指数)を、筋力低下は握力により評価しました。全対象者を①正常群、②肥満群、③サルコペニア群、④サルコペニア肥満群の4群に分類し、MMSEなどの認知機能評価により認知症およびMCI(軽度認知障害;認知症症状がわずかにみられるものの日常生活には問題がなく認知症の前段階と考えられるもの)の有病率を比較検討しました。

 結果として、対象のうちの割合をみると肥満は21.2%、サルコペニアは14.6%、サルコペニア肥満は4.7%でした。MCIと認知症の有病率はそれぞれサルコペニア肥満群が最も高く、次いでサルコペニア群、肥満群の順で、正常群は最も少ないという結果でした。そしてサルコペニア肥満群は正常群に比べて有意に認知症の有病率が高いことが判明しました。

 以上の結果から、研究者らは「サルコペニア肥満は認知症のリスクが高まることが明らかとなった。MCIの高齢者では運動や食事などの生活習慣を改善することで、認知症への進行予防効果が期待される。」と述べています。つまりMCIの段階では認知障害がわずかにあっても日常生活には問題ので、運動や食事により肥満を解消することができれば認知症にまで進行し、社会生活に支障がでることを抑制できる可能性が高まるわけです。さらに握力やBMIなど簡便な指標により認知症が発症することを早期に発見することができる可能性が示されたと考えられます。