医療あれこれ
糖尿病予備群でも認知症のリスクあり
以前から糖尿病は認知症の危険因子とされています。その要因として初めに考えつくのは、糖尿病が原因で発生する動脈硬化性の病変です。糖尿病性網膜症や糖尿病性腎症といった糖尿病による細小血管障害、さらに脳梗塞や心筋梗塞などの大血管障害は糖尿病における最も注意を要する合併症として知られています。一方、認知症についてもアルツハイマー病のように脳細胞自体が変化する変性疾患として発症することが多いのですが、場合によっては脳梗塞などの血管障害により認知症となる血管性認知症もあります。そこで糖尿病に合併した認知症は血管性認知症ではないのかと考えられますが、血管障害が明らかでない糖尿病合併の認知症発症もあり詳細が不明な点もあります。このたび糖尿病には至っていないけれど糖尿病の一歩手前である境界型糖尿病あるいは一般にいわれる糖尿病予備群においても認知症のリスクは高まっているのかを検討した論文が公表されました。 (金沢大学認知症先制医学 篠原もえ子氏ら J Alzheimers Dis.
2022, 85,235-247)
研究の対象は、全国各地に在住する65歳以上の1万214人で、糖尿病の有無の他、ヘモグロビンA1cなどの諸項目と、アルツハイマー病、血管性認知症の発症との関連が検討されました。また糖尿病と関連する生活習慣と関連する事項、すなわち年齢、性、地域、高血圧、コレステロール、BMI、教育レベル、喫煙、飲酒、うつ症状、運動習慣などとの関連について検討されました。
その結果、糖尿病発症とアルツハイマー病発症には有意な関連が明らかとなりました。そして糖尿病ではない人に比べて糖尿病ではアルツハイマー病になるリスクは1.46倍高いことが判りました。またヘモグロビンA1cが6.5%以上と高値の群では5.7%未満の正常群に比べてアルツハイマー病のリスクが1.72倍高いこと、さらに糖尿病予備群(ヘモグロビンA1cが5.7~6.4%)も正常群に比べ1.30倍リスクが上昇していました。これに対して血管性認知症では、このようなアルツハイマー病でみられ関連性はありませんでした。
以上の結果から研究者らは、糖尿病発症群だけではなく予備群でもアルツハイマー病のリスクが高いことが明らかになったと結論付けています。さらに今後の検討がまだ必要ですが、糖尿病関連の認知症発症メカニズムは血管性認知症とは異なる可能性も示されたと思われます。