医療あれこれ

インスリンを発見したバンティング

 これまでにもこの項で何度かご紹介しましたが、糖尿病患者さんの数は増加傾向にあります。世界的にみると2019年、20歳~79歳の糖尿病人口は46,300万人ですが、2045年には約7憶人に増加すると予測され、さらにこのうち50%は診断・治療されていない状況といいます。診断の遅れは糖尿病合併症発症リスクを高めることになりなります。世界の糖尿病治療と合併症の管理に費やされる医療費は、世界全体の総医療費のうち10%を占める7,600憶ドル、日本円にして約83兆円になり、世界経済を圧迫する要因になることはいうまでもありません。

日本においては、こうした状況を改善しようというキャンペーンとして、2021118日~1114日の1週間は全国糖尿病週間として糖尿病への誤解や偏見をなくし、全国民が一体となって糖尿病対策を推進しようという取り組みがなされています。1114日は糖尿病発症に重要な意味を持ち、薬剤として糖尿病治療に必要なインスリンを発見したカナダ人医師フレデリック・バンティングの誕生日であることから、20061220日に国連総会で公式に採択された世界糖尿病デーです(2014119日付医療あれこれ参照)。バンティングがインスリンを発見したのは1921年とされていますから、本年はインスリン発見100周年にあたり、糖尿病の予防、治療、療養を喚起する啓発運動の推進には特に重要な意味を持つと思われます。

 

フレデリック・バンティング (18911941)は、カナダのオンタリオ州アリストンにある農家に生まれました。成長してトロント大学に進んだときは神学を学んでいましたが、医学に転じて、1916年に卒業し医学博士の学位を取得しました。英国ウェスタンオンタリオ大学の外科解剖学の助手をしていた時、学生講義の下調べで偶然、外科婦人科学雑誌に掲載されていた「ランゲルハンス島と糖尿病の関係、特に膵臓結石の一症例」(モーゼス・バロン著)という論文を目にしました。これは、「結石により膵臓の消化液を流し出す膵管が詰まり、膵液分泌細胞が退化したのに、ランゲルハンス島は元のままの性状だった」という内容でした。この当時すでに膵臓が糖尿病に関係する何らかの機能に関係していることは明らかにされていました。(次回に続く・・・・)