医療あれこれ

ストレスによりガンが再発する

 ガンはさまざまな種類のガン細胞が体中のいろいろな臓器に発生し、増殖をし続けることから、放置するとガン患者は死に至ることになってしまいます。もしガン組織を手術的に摘除することができれば最も良い結果となりますが、たとえ完全に摘除できなくても最近発達がめざましい抗ガン剤などの化学薬品や、放射線療法などによりほぼ完全に取り除くことができるようになりつつあります。

その方法のうちでも、ガン細胞自体を取り除く方法と、ガン細胞は残存していても、それが悪性細胞として活動しないようにしておく、つまり冬眠状態に追い込むことによってあたかもガンは存在しないような状態に保って、ガンはほぼ治ったといえるような状態にしてしまう方法が考えられています。この冬眠状態のガン細胞(休眠細胞)は増殖が停止しているか、たとえ増殖能力があったとしても極めてゆっくりとしか増殖しません。また休眠細胞の数はごく少数であることから、わずかな残存があったとしても人が生存することに影響はないのです。つまり眠っているガン細胞を目覚めさせなければ治療は成功ということになります。逆に休眠細胞を目覚めさせてしまうと、治療を施したガンが再発してしまいます。

 202012月、アメリカの国立ガン研究所から、ストレスをうけた白血球の一種である好中球にはこの休眠中のガン細胞を目覚めさせる作用があるという興味ある論文が発表されました。

Perego M. et al. Science Translaion Med. 2020. Vol 12 02 Dec.

DOI: 10.1126/scitranslmed.abb5817

好中球は白血球のうち、体内に侵入した異物や病原体を貪食することにより除去する典型的な白血球で、通常は人の健康を維持するために働いています。しかし腫瘍細胞はこの好中球を悪者に変えてガン細胞が増殖するようにする、つまり好中球をだましてしまいます。何が好中球をだますのかというとそれがアドレナリンなどのストレスホルモンなのだそうです。

 動物実験で腫瘍細胞を植え付けたマウスを閉所に長時間閉じ込めてストレスを与えると、マウスの肺や脾臓などに好中球が増加し、腫瘍が増殖していることが判りました。次にマウスにストレスホルモンを遮断する降圧剤を投与しておくと、好中球の集積は抑制され、ガン細胞は明らかな腫瘍形成ができない状態となりました。さらに人の場合でも、ストレスホルモンの測定値が高い患者の方が早期にガンが再発することも観察されたそうです。

研究者らは「ストレスを受けた好中球は腫瘍の目覚まし時計」と言っています。