医療あれこれ
大腸ガンは高齢者だけの問題ではない
わが国においてこれまで欧米に比べて胃ガンの罹患率が高く、また近年は肺ガンが著しい増加傾向を示していますが、大腸ガンはこれらを超えて最も罹患率が高いガンとなっています。
日本で大腸ガンが増加している原因は、①食生活の欧米化、②運動不足、③高齢化、が主なものと考えられています。日本における食生活の特徴は以前のように和食の特徴である米飯などの炭水化物や野菜などの食物繊維が減少し、洋食のように動物性たんぱく質や脂質が増加している傾向があります。また自動車交通が著明に増加し、歩数にみられるような運動量は確実に減少しています。さらにこれは大腸ガンに限ったことではありませんが、高齢化は細胞の老化はガン発症を増加させていきます。これらの要因はいずれも便が大腸内に停滞する時間を延長させガン発症の要因になってきます。
しかし大腸ガン発症率や、これが原因となって死亡する致死率は増加していません。それは健診において便潜血反応がおこなわれ、陽性者には大腸ガンの早期発見につながる大腸内視鏡(大腸ファイバースコープ)による精密検査が実施されているからです。
大腸内視鏡検査で、大腸ポリープや腫瘍などの隆起病変が発見されたら、内視鏡的ポリープ切除術(ポリペクトミー)や内視鏡的粘膜切除術がおこなわれます。もし腫瘍のサイズが大きく進展度が高度であった場合には腹腔鏡的切除術がおこなわれることになります。大腸の最も肛門に近い部位に腫瘍があった場合、肛門を温存して切除することが困難であれば、人工肛門増設が必要になりますが、現在では80~90%の症例で肛門括約筋温存術が可能とされています。
また抗ガン剤治療についても新たな有効性が高い薬剤が開発されています。薬剤の併用療法により切除手術が困難な症例や術後の再発予防に用いられています。このように発症頻度が高い大腸ガンですが、年一回の健診により早期発見すれば、決して予後が不良のものではなくなってきていると考えられます。
いずれにしろ日本では大腸ガンは中高年者における発症率が高いと考えられています。しかし最近、アメリカ国立ガン研究所から若年成人の大腸ガンが急増しているという報告がありました。その原因の詳細は明らかではありませんが、若年者においても、肥満、運動不足、喫煙など、高齢者の大腸ガンリスクが増加する要因と同じことが考えているのだそうです。また家族性腺腫性ポリポーシスなど遺伝的疾患によって若年齢での大腸ガン発症リスクが増加しますが、若年発症大腸ガンのうち遺伝的原因によるものは10-20%程度と説明されています。アメリカの研究者は、若年層も医師も「大腸がんは老人の病気」という概念を捨て去る必要があると述べています。