医療あれこれ
眼底の血管変化と難聴
眼科的検査で眼球を通して眼底を観察し、眼底に観られる網膜の変化や、その網膜を走行する動脈や静脈の眼底血管を観察することはさまざまな全身疾患の状態を評価するために必要です。最も典型的に眼底検査が定期的に実施される生活習慣病に糖尿病があります。糖尿病における合併症のうち糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害とともに糖尿病三大合併症として挙げられるものに糖尿病性網膜症があります。眼のレンズを通して視覚として見える映像が映し出されるのが眼底の網膜ですが、この網膜が傷んだじゅうたんのようにズタズタになると鮮明な視覚が得られなくなりやがて失明に至るという恐ろしい合併症です。長年、糖尿病を患っている人が血糖値などの検査結果が良好でなければ網膜の変化が進行し糖尿病性網膜症による視力障害が発生することを早期に発見し適切な糖尿病治療をおこなうことが大切です。
もう一つ、網膜の変化を観察する必要がある代表的な生活習慣病は高血圧です。長年にわたり高血圧に対する適切な治療がなされていないと眼底出血の他、網膜血管の走行が次第にゆがんだ状態となり高血圧性眼底変化が進行します。そもそも皮膚を切開することなく生の血管を観察できるのは眼底血管しかありませんから、生の血管変化から動脈硬化を診断していく方法として重要なのは眼底検査ということになります。このように全身疾患の状態を評価するために眼科的検査は重要なのです。
最近、眼底を走行する微小血管径が不整になってくることが聴力低下と関連することがオーストラリアの研究者から公表されました。
(JAMA Otolaryngol HeadNeck Surg. 2020.Jan. 30)
これまで年齢とともに聴力が低下してくる高齢者の難聴や、騒音による騒音性難聴の発生機序の詳細は明らかではありませんでした。この原因をさぐる方策の一つとして、平均年齢11歳の小児1300名とその親(平均年齢43歳)1260名において網膜血管径を測定し、聴力と比較検討しました。その結果、網膜の微小血管に出現する有害な変化が中年期に発症する難聴のリスクと関連していることが判りました。そしてこの網膜微小血管の変化は小児期中ごろから出現してくることが推察されたのです。著者らはこうした微小血管が良好な状態に保たれているかどうかが、将来の聴力障害が引き起こされてくることに影響すると述べています。
今回の研究結果によって難聴発生の詳細なメカニズムは以前明らかにはなっていません。しかし少なくとも全身状態に何らかの有害事象があると聴力を損なってくることが推察されます。おそらく眼底血管の変化は全身の微小血管の状態を表しており、内耳など聴力に関係する臓器と関連していることも考えてみる必要があるのではないかと想定できます。