医療あれこれ

ウイルス感染で発生する肛門ガン

 肛門に発生する肛門ガンは、消化器ガンのうちでも胃ガンや大腸ガンに比べて発生頻度が低いものです。特に日本においてはまれなガンとされています。しかしアメリカでは最近、肛門ガンが急増しているという報告があります。

J Natl Cancer Inst. 2019 Nov 19. pii: djz219. doi: 10.1093/jnci/djz219.

もともとは50歳以上の男性において発生頻度が高いといわれていたものですが、今回の報告では30代半ばの黒人男性でリスクが高いといい、1940年代に生まれた人に比べて1980年代に生まれた人は5倍のリスクになっているのだそうです。

 ガンは、肺ガンや胃ガン、大腸ガンのように腫瘍ができる臓器別の分類もありますが、ガン細胞の種類によって分析されています。肛門ガンの場合、多くは「扁平上皮ガン」といわれる病理組織で、これは肺ガンの一部や食道ガン、あるいは子宮頸ガンと同じ種類のガン細胞です。これらのガンのうちでも特に肛門ガンと子宮頸ガンは臨床的特徴が類似しています。その類似点とは、多くがヒト・パピローマ・ウイルス(HPV)の感染が原因で発生することです。

 HPV感染は性感染症と呼ばれるもので、性行為が原因で感染が拡大し、これが原因で子宮頸ガンに罹患することが知られています。肛門ガンが30歳代半ばの黒人男性において発生頻度が高いのは同性愛者の存在が影響しているのかも知れません。

HPV感染予防のためワクチン接種がおこなわれ、子宮頸ガン予防に若い女性にこのワクチン接種が推奨されていましたが、ご存じのように、日本ではワクチンによる神経系の副作用が問題とされ厚生労働省によるワクチン推奨が中断されている状態です。

子宮頸ガンと同じく肛門ガンもこのHPVワクチンにより予防が可能です。アメリカでは子宮頸ガン、肛門ガンのどちらも予防のため若年者に対してHPVワクチン接種がよいことから推奨されているのですが、50%のアメリカ人はこのワクチン接種を受けていません。そして75%のアメリカ人は肛門ガンがワクチン接種により予防できることを知らないのだといいます。

論文の発表者は、肛門ガンの発生率が最近急増していることと、ワクチンにより予防ができることの意識を高める啓発活動が重要だ、と述べています。