医療あれこれ

子供の時から動脈硬化のリスクがある

 動脈硬化はLDLコレステロールが多いなど血中脂質の異常を始めとした生活習慣病をきっかけとして中年以降に生じ始めると思われます。しかし近年、乳児・幼児の時から、あるいはそれよりも前に母体の中にいる胎児の時から動脈硬化になるリスクがあると考えられるようになっています。このほど71112日に京都での第51回日本動脈硬化学会における企画の一つとして「小児期からの動脈硬化のリスクとその予防」というシンポジウムが開催され以下の諸問題が討議されました。 

出産前の胎児から動脈硬化のリスクがある

現在の日本は少子高齢化ですが出生数は年々減少しています。そして出産時の体重が少ない新生児が誕生するという明らかな傾向がみられ、低体重の新生児であるほど将来に心筋梗塞を始めとした冠動脈疾患での死亡率が高いという統計があります。また最近の日本人女性は「やせ型」が多いのですが妊娠中にもこの傾向は続き、結果として低体重児が生まれやすいことにつながります。母体にとって妊娠中には胎児のための栄養分も含めて普段より多くの摂取カロリーが必要なのですが妊娠という不快感も影響して栄養摂取が低下傾向にあるそうです。また最近は晩婚化の影響から高齢出産の場合が多くみられるようになりました。もちろん出産自体は安全になされるようになっていますが、胎児や新生児の低体重化が問題となり、成人に成長してから動脈硬化発症への影響を考慮する必要があります。

妊娠中の母体高血圧が胎児に影響する

 妊娠中には胎児へ十分な血流が供給される必要があり、この目的のため母体の血圧は通常高くなります。母体の状態を考えると血圧が高くなりすぎると高血圧治療が必要となりますが、降圧剤投与により母体血圧が下がりすぎると胎児の血液循環に影響が出ます。胎児の発育不全は腎臓や膵臓が形成される過程に影響が現れ、将来の腎機能不全の原因となったり、膵臓でインスリンを分泌するランゲルハンス島の成熟化が影響を受けると新生児のインスリン分泌不全ひいては糖尿病発症の要因ができあがってしまいます。こうした妊娠中の影響は出産後から成長して成人になったときに発症してくる生活習慣病の要因が作られることになり「成人病胎児起源説」などと言われてます。

小児期の状態が動脈硬化発症に影響する

 出産後、乳児の栄養も将来の動脈硬化発症に影響を及ぼします。母乳には動脈硬化を助長するLDLコレステロールが多く含まれていますが、そのおかげで乳児の体で生成されるLDLコレステロールは抑制され動脈硬化予防につながります。しかし人工乳栄養ではこの作用がなく将来の動脈硬化発症に影響が出る可能性があります。また36歳の幼児肥満が問題になり、このとき既に潜在的に動脈硬化が進行していると考えられています。メタボリック症候群で問題となる内臓脂肪で生成・分泌されるアディポネクチンの増加は動脈硬化が進行している一つの指標になりますが、肥満のある幼児はすでにこの状態にあると考える必要があります。ふつう子供の健診では腹囲測定がおこなわれることはありませんが、中年以降の健診と同様に小児の健診でも腹囲測定が通常項目として実施される必要もあると考えられています。

小児の原発性脂質異常症

 体質的にコレステロールや中性脂肪が高値である原発性脂質異常症は生まれながらこの状態が存続しているわけですが、小児において採血検査をしてコレステロールなどを測定する機会は通常あまりありません。したがって発見が遅れることになるのですが、原発性脂質異常症の子供では10歳ですでに動脈硬化は始まっているといわれます。成人における脂質異常症と同じく子供の場合でも薬物治療を早期に開始するかどうかは小児科医にとってなやましい問題になります。