医療あれこれ
認知症の人は転倒しやすい
超高齢社会の日本では、高齢者が転倒すると骨粗しょう症を合併していることも関連して骨折しやすい、その結果、寝たきりになってしまうことが危惧されます。転倒というアクシデントと骨粗しょう症はともに高齢者における骨折の大きなリスクです。一方で、高齢者になるほど認知症を発症しやすいことはよく知られていますが、認知症になるほど転倒しやすい状態になることも認められています。
認知症をもつ高齢者が転倒しやすい原因としては、まず認知症によって周囲の状態を即座に把握する能力が低下していることが考えられます。自分の身の回りのことを正しく確認できていないと、物とぶつかったり、つまづいたりする頻度が高くなり直接転倒の原因につながります。また周囲に対する注意力、判断力の障害、さらには認知症が原因となる行動や心理状態の変化が転倒の危険を増加させます。さらに認知症の人で手足の麻痺があったり、神経障害による運動能力の低下があると物理的な転倒の危険因子になります。これらの病的状態に加えて、薬剤使用の影響も考える必要があります。つまり睡眠障害という訴えに対する睡眠導入剤の処方や、抗不安薬、抗精神病薬などは眠気やふらつき、注意力・集中力の低下を招きます。高血圧や糖尿病などの合併症があれば、これらの治療薬が失神やめまいをきたすことも考えておかなければなりません。
一方で、認知症の人は骨の量や質が低下していることも報告されています。海外のデータでアルツハイマー病の人では骨密度が有意に低下しているというのです。つまり認知症の人では転倒しやすい上に骨量の低下によりすぐに骨折しやすい、その結果寝たきり状態になってしまうことを考えなければならないということになります。寝たきり状態ではこれが原因で認知症になることが想定されますが、逆に認知症が原因で寝たきりになる可能性が高くなるといえます。
できるだけ身体活動をふやすなどの生活改善は認知症の予防になるとされていますが、この際、同時に薬剤による骨粗しょう症の治療を積極的におこなうことが必要であると考えられます。