医療あれこれ
健康診査~健診と検診
からだが健康な状態であるかどうかを定期的に調べることを一般的に「健康診断」といいます。しかし法律で定められている健康診断は通常「健康診査」ということばが用いられていることから、この「健康診査」が厚生労働省の指導でおこなわれる健康増進活動のための正式な呼び名ということになります。この健康診査には、「健診」と「検診」の二つがありますが、これらの相違は何かを整理しておきたいと思います。
厚生労働省の設置している健康診査等専門委員会では、健診は主に将来発症するかも知れない病気になる危険度を確認する検査であるのに対して、検診は病気そのものの存在を確認する検査と定義しています。健診で病気になる可能性が高いと判断されれば生活習慣の改善等により発症を未然に抑止する必要があるのに対して、検診で陽性と判定されれば当然のこととして治療がおこなわれることになります。昨年この項でご紹介した未病は高度の意味を持つ健診と考えることができると思います。
健康診査がおこなわれる根拠となる法律は、妊娠・出産から小学校入学までの子供に対しては母子保健法が、小学校から高校にいたる児童・生徒に対して学校保健安全法、高齢者に対しては高齢者医療確保法、労働者に対して労働安全衛生法、その他健康増進法などがあり、それぞれ法的義務が課せられています。さらにこれら法的根拠がなくても任意で人間ドックなどがおこなわれ、事業主が助成している場合もあります。
検診で陽性となれば精密検査をおこない治療するという流れになり、次の検診まで経過観察をする、つまり定期的に検査することが必要です。一方、健診で何らかの異常が発見されたとき、それがどの程度危険なのかによって病気の予防という対応は異なってきます。危険度が大であると判定されれば積極的に保健指導をおこない病気の発生を予防しますが、危険度はそれほど大きくないとの判定では自己管理で生活改善をおこなうといった事後措置つまり検査後の対応ということになるでしょう。これらが効率的におこなわれるためには、それぞれの検査の感度が十分であることと同時に、安全性なども考慮することが必要です。
健診と検診、どちらが重要かについては、いうまでもなく病気でない方が良いわけですから健診が重要となります。しかし発生してしまった病気を早期に発見する定期的な検診もまた大切で、その人の将来を左右することになります。予防医学的にはからだの異常をいち早く発見して病気を防ぐことを一次予防、もし病気になってしまっても、これをできるだけ早期に発見して処置しようとするのが二次予防、さらに病気が発生してしまっても悪化を防ぐ、あるいは合併症や後遺症を予防する三次予防と、3段階で考えられています。このことから健診も検診も両者必要であるという結論になります。また近い将来、さまざまな検査法が実用化され未病が発見できるようになると健康増進はさらに進歩するものと思います。
引用文献: 辻 一郎;日本内科学会雑誌 2017、106、605~610