医療あれこれ

未病について

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 去る1217日は、江戸時代の儒学者 貝原益軒が生まれた日でした。医療の歴史(78)でもふれたように、貝原益軒は人が長命を得るためには、どのような生活をするべきか健康法はどうあるべきかを「養生訓」として著しています。この書が著述されたのは益軒が85歳という当時では珍しい高齢で亡くなる前年(1713)のことでした。益軒はまさしく養生訓の内容に準じた生活を送り、85歳という長寿を手にしたのでしょう。

このことが今回のテーマである未病とどのような関係があるかというと、日本未病学会がこの貝原益軒の生誕日1217日を「未病の日」として制定したのです。日本健康生活推進協会理事長の大谷泰夫氏は「人の健康状態について、従来は病気か健康かという二つしかなかったが、その中間領域に未病というものがあり、未病は病気になる前の状態であると同時に、一度病気を患い回復した後の状態も含まれている」と述べられています。健康診断などではよく、病気を早期発見して早期に治療するべきであるということをよく聞きますが、早期発見ということは少しではあるけれども、すでに病気の状態が存在していることになります。健康維持の目標は、病気を早期に発見するより、病気にならないようにはどうするか、の方がはるかに大切であることは言うまでもありません。つまり未病の状態を的確に把握することができればよいことになります。

 これからの医療は、病気を治療するのではなく、病気にならないようにすることが究極の目標です。このためには未病の状態、あるいは未病となる可能性をすばやく発見することが大切です。たとえば、日本人の2人に1人はガンで死ぬといわれているけれど、日本人の寿命が延びたのだから、昔よりガンが増えるのは当たり前。そもそもガンは防ぎようがないのだから早期発見あるのみだ。などの考え方は誤った認識です。高血圧や糖尿病、脂質異常症などはガンとは関係がないと考えるのも誤った認識です。糖尿病、高血圧、脂質異常症は、ガンあるいは認知症の大きなリスク要因なのです。100%とはいいませんが、高血圧、糖尿病、脂質異常症は薬などでコントロールすることができます。するとガンや認知症の発症を予防することにつながるのです。

 血液検査や尿検査で「未病」の状態を発見するさまざまな指標(ある種のタンパク質など)が研究、開発されています。これらを実用化していけばまさしく「未病マーカー」となるといえます。近い将来、これらの未病マーカーを用いて簡単に未病を発見し、死亡につながる重大な病気(になる可能性)を予防していくという究極の予防医学が確立されていくことでしょう。