医療あれこれ

軽度認知障害(MCI)

 最近、認知症の話題が注目されていますが、そのなかでも認知症の前段階とされる軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment: MCI)に注目が集まっています。一部にはMCIとはアルツハイマー病などの認知症の病状が軽度であるものをいうと誤解されていることもありますが、MCIはあくまで認知症には至っていない認知症の予備群であって認知症ではありません。そのため認知症のように社会生活に何ら支障はなく、またMCIの状態を早期に把握することができれば、認知症発症を予防することも可能と考えられています。

 MCIの状態としては、①本人や家族から「物忘れ」の訴えがある、②記憶の障害以外は正常である。③日常生活にも問題はない、④認知症の検査にも異常はみられない、⑤しかし知識の不足ではない強い記憶障害がある、といった項目にすべてあてはまる時、軽度認知障害(MCI)と判定されています。MCIは認知症の前段階ですから、認知症の予防としてMCIに対する早期治療をおこなえば認知症にならない、と当然考えられますが、一方で何の治療をしなくてもすべてのMCIが認知症に移行するものではないともいわれています。

 いずれにしろMCIを早期に発見する検査法が確立されれば何らかの対策を講じることができるところですが、実はこれについて新しい方法が開発され、この有用性を示す検討成績が集積されてきました。その方法は、大脳で認知症発症と関連がある異常タンパク質アミロイドβの蓄積を評価する方法です。アルツハイマー病ではアミロイドβの大脳への蓄積がみられることから、これが原因となってアルツハイマー病が発症するという説は以前より知られていました。最近になってアミロイドβがアルツハイマー病の原因ではないとする論文が多くみられるようになってきましたが、アミロイドβが原因であるか結果なのかは別にして、アミロイドβの蓄積があるのは事実で、この蓄積の程度からMCIか、異常なしかを判別しようとする検査法が注目されているのです。実際には、アミロイドβを脳脊髄液中に排出するタンパク質、アミロイドβを貪食してしまうタンパク質、そしてアミロイドβの毒性を弱めるタンパク質の三種類を測定して、MCIのリスク判定をおこなうものです。現在ではまだ医療保険の適応にはなっていないので、人間ドックなど健診施設で実費が必要ですが、やがて広く普及するようになると、日本における認知症対策に大きな力を発揮するものと思われます。