医療あれこれ
インスリンを発見したバンティング(2)
2022年はカナダ人医師バンティングが世界ではじめてインスリンの抽出に成功してから100年目にあたります。そして11月14日はバンティングの誕生日で、国連で公式に定められている世界糖尿病デーということを前回ご紹介しました。
さてインスリンが生成されている場所は膵臓のどこかにあることは想像されていましたが、なかなかインスリンを抽出することに成功した人はいませんでした。なぜなら実験動物から膵臓を取り出しインスリンの抽出を試みても、膵臓で生成されている消化酵素を含む消化液でインスリンが消化されてしまい抽出することができなかったのです。バンティングが「膵臓の消化液を流し出す膵管が結石により詰まり、膵液分泌細胞が退化したのに、ランゲルハンス島は元のままの性状だった」という人の症例報告を記した論文を目にしたときに思いついたのです。それは実験動物の膵管を結紮してしまい、消化酵素を生成している膵臓の部分を退化させてしまったうえで、残った膵臓からインスリンが抽出できるのではないかと考えたのです。
バンティングはこの動物実験をさせてもらうため、カナダのトロント大学教授で糖代謝の権威であるジョン・マクラウド教授を訪ねました。マクラウド教授は、バンティングは医師ではあるもののそれまで糖尿病の研究は素人であり、そのような大胆な実験ができるわけがないと難色を示していました。しかしバンティングの熱意に負けて、翌年の夏休みマクラウド教授の夏休み期間中の8週間だけ実験室を使う許可をだしました。そして実験に用いられる犬を10匹用意し、さらに実験助手としてチャールズ・ベストという医学生を紹介してくれました。
その結果、バンティングとベストの二人は犬の膵臓からインスリンの抽出に成功したのでした。しかしこのインスリンは精製されたものではなく、人に投与することはなかなかできませんでした
。そこでジョン・コプリックという生化学者はさまざまな工夫を重ねてついにインスリンの精製が成し遂げられました。
糖尿病に苦しんでいた大勢の人々を救う世界的大発見を成し遂げたのは、発案者のバンティング、その実験助手ベスト、インスリンを精製して臨床治療に使用する道を開いたコプリック、研究をおこなう場所を提供し糖尿病の権威として論文の指導をしたマクラウドという4名の研究者でした。論文発表から2年後という異例の早さでバンティングとマクラウドの二人にノーベル生理学・医学賞がおくられたのでした。