医療あれこれ
医療の歴史(126) ジュネーブ宣言
コロナ拡大を抑止するための非常事態宣言による自粛生活が徐々に解除され、新たな日常が始まろうとしている5月30日の正午過ぎ、コロナ対応にあたる医療従事者らへの敬意と感謝をこめて、航空自衛隊のアクロバット飛行隊ブルーインパルスが都心上空を飛行しました。医師を始めとした医療従事者はそれぞれの業務を粛々とこなしているのであって、特別な敬意や感謝を求めるものではありませんが、ただ直接コロナ関連の対応にあたる医療者に対して「コロナがうつる」などと冷たい待遇をする人がいることは誠に残念なことと思います。
ところで医療者のあるべき姿を文書化したのが今から70数年前1948年の第2回世界医師会で採択された「ジュネーブ宣言」です。この概要は
1.人類への貢献に人生をささげる
2.恩師へ尊敬と感動の念をささげる
3.患者の秘密を守る
4.身分、貧富の差なく医療をする
5.患者と職業上の関係を悪用しない
6.人命を最大限尊重する
といったもので、紀元前400年、ギリシアの医師ヒポクラテスの誓いを基本にしています。
ヒポクラテスについては随分以前にこの項の医療の歴史でご紹介していますので、また一度ご覧になって下さい。
(医療の歴史3 ヒポクラテスの誓い ← クリックして下さい)
ジュネーブ宣言が最初に採択された当時は、ヒポクラテスから2千年以上受け継がれた「パターナリズム」と言われる考え方が前提にありました。つまり医療者は上記1~6を基本とするとともに、受診者に対して病気の状態や今後の経過などは何一つ告げてはならない。医療に関するすべての決定権は医療者にあるのであって、受診者の判断に任せてはならない、というものです。
1948年のジュネーブ宣言採択から時間が経って、このパターナリズムは現在の医療の形ではなくなりました。そこでジュネーブ宣言自体も何度か改定が加えられ、直近の2017年改訂では大きな改定がおこなわれました。その最たるものは、「患者の自立と尊厳を尊重する」という一項目が加えられました。つまり現在の倫理学でいう「自律尊重」の原則が強調されたのです。この形が「インフォームドコンセント」と言われるものですが、このことについては改めてご紹介します。