医療あれこれ
医療の歴史(31) 遺伝子の本体 核酸 の発見
医療の歴史(30)でご紹介したように、遺伝という概念を理論づけたのはメンデルですが、これを発展させるためには、その遺伝形質を伝える本体である遺伝子を解明していく必要があります。現在では、遺伝子の本体は DNA (デオキシ・リボ核酸) という核酸の一種であることは一般にもよく知られています。しかし初めのうちは、遺伝子の本体は何らかのタンパク質だろうと考えられていました。
核酸を発見したのはスイスの生化学者 フリードリッヒ・ミーシャー(1844~1895)ですが、彼は遺伝の解明をめざしていたのではありませんでした。血液中に存在する細胞のうち白血球の生化学的構造を究明するため、病院から出る医療廃棄物である包帯に付着した血液から白血球を集めてその構造を研究していたのです。生物体の細胞は右の図のように細胞質の中に核が存在しますが、血液細胞では、核があるのは白血球だけで赤血球や血小板には核は存在しません。その核の構造を調べているうち、タンパク質の他にリンを多量に含んだ物質を発見し、これをヌクレインと命名しました。1869年のことです。彼はこのヌクレインの機能はリンを貯蔵するものだろう程度にしか考えていなかったのでした。しかしこれこそが遺伝学の発展につながる重要な発見だったのです。
アメリカにあるロックフェラー研究所のオズワルド・エイブリー(1877~1955)は、肺炎球菌という細菌が無害の性質を有害なものに変える原因物質、つまり遺伝物質は何かについて研究していました。そして1943年、その遺伝物質はタンパク質ではなく核酸、すなわち DNAであることを世界で初めて報告したのです。その後、遺伝子の本体であるDNA の構造を解明するために、多くの研究者が競い合うことになるのでした。