医療あれこれ

医療の歴史(14)物理学との融合~サントリオ

 現在の医療で最も基本的で簡単な検査項目は、体温や体重の変化を見ることです。これらは今当たり前のように体温計や体重計が使えるからですが、医療の歴史上、初めて体温計や体重計を作ったのは中世イタリアの医師で、サントロ・サントーリュ(15611636)という人で、一般的にサントリオと呼ばれています。医療の歴史(9)でもご紹介したイタリアのパドヴァ大学において地動説で有名なガリレオ・ガリレイの同僚でした。

santorio2.jpg 温度が上がると空気が膨張することを利用した温度計はそのガリレオがすでに考案していたのですが、サントリオはそれをそのまま体温計に応用しただけのものです。曲がったガラス管を水の入った容器にたて、ガラス管のもう一方の端についているガラス球を口に加えると、ガラス球やガラス管の中の空気が体温によって膨張し、水を押し下げます。ガラス管に「適当に」目盛りをつけておき、水位の変化で体温を見るというものでした(右の図)。温度自体がいい加減なもので、現在のように、お湯が沸騰するのが100℃、水が凍るのが0℃というように絶対的な基準も何もなかったみたいです。しかし人の体の状態を客観的なデータとして初めてとらえたという画期的な試みであったことには間違いありません。

Santorio.jpg もう一つ、サントリオが作って生理学の実験をしたのが体重計です。自分自身がその体重計の上で生活をしました(左の図)。つまり食事や排尿、排便も含めた日常の生活を大きなハカリの上で過ごしたのでした。何を研究したかったのかというと、食べたものや飲んだものがそのまま排泄されると体重は変化しないはずですが、本当にそうなのかどうかということです。その結果判ったことは、食べたものや飲んだものの重さより、排泄物の重さがはるかに少ないということでした。つまり「口から入ったものの一部は知らない間にどこかへ消えてしまっている」ということです。これが、現在で言う「不感蒸泄」や「基礎代謝」というもので、人の水分は気がつかない間に汗となって蒸発してしまうことや、栄養分が体の中で代謝されるという事実です。これらの現代生理学の基本となる現象を初めて証明したのでした。

 サントリオの業績は大げさに言うと「医学研究に初めて物理学を応用した」ということになります。歴史上の知名度から言うと、同僚だったガリレオよりはるかに知られていないサントリオですが、医学・医療が発達する歴史の中で、彼の功績は多大なものであったと思います。