医療あれこれ
医療の歴史(125) 緒方洪庵とコレラ
新型コロナウイルス感染拡大のため自粛生活が続いておりますが、テレビでも新しいテレビドラマの撮影が予定通りに進まず、これまで放映すみのドラマを再放送する場合をよく見かけます。初回放送時とは時代背景が違うなどの問題があったりして全てがうまくいくとは限らないようです。しかしこのうちでも現在TBSで再放送中の「仁」は視聴者からの評判もよく、現在のコロナ感染にもつながる内容で、歴史上、実在の医療者が何人も登場することもあり興味深いものがあります。
ドラマの初めの方の回では、江戸時代末期のコレラ菌流行がテーマになっている部分があり、興味あるものですのでご紹介します。そのドラマ冒頭部分のあらすじは・・・・・
東都大学医学部脳外科の医師である南方 仁は、病室を抜け出した術後患者を追って病院の非常階段を登っていったところで誤って転落し、その拍子に江戸時代末期にタイムスリップしてしまいました。そのとき出くわした武士同士の争いで重傷を負った旗本 橘 恭太郎の症状、つまり一時的な意識清明の後急速に意識消失に陥るという状態をみて急性硬膜外血腫と診断しました。事情を理解しない母親の反対を押し切って、昔の全く不十分な器具だけで開頭手術を施し、恭太郎は無事回復しました。
その後、仁はある女性が頭部を馬に蹴られて重傷を負うという事件に出くわしました。仁はSTAブランチ(浅側頭動脈の分枝)からの出血に対して外科的処置を施し、その女性を救ったのです。ところが女性の一人息子(喜市;きいち)が仁の目の前で嘔吐、下痢の急性症状を呈し、当時江戸で再流行の兆しがあったコロリ(現在でいうコレラ)に罹患したことを知ります。コレラはコレラ菌の経口感染で、激しい下痢、嘔吐のため極度の脱水に陥り死に至る感染症です。現在では点滴静注などでの十分な補液とともに抗菌剤で治療することができますが、江戸時代にはコレラが感染症という知識すらありませんでした。人々が次々と亡くなっていくことからコロリと呼ばれていたのです。仁は周囲の人々から援助を得て、ORS(経口補水液)を作ります。水と塩と砂糖から、それも仁の味覚に頼って今のスポーツドリンクがどれ位の味かという手探りでの分量で。そこに現れたのが蘭方医の緒方洪庵です。洪庵の援助により点滴静注のセットを作り出し、周囲の罹患者を救ったのでした。なお緒方洪庵は以前にもご紹介しましたが(2016年4月1日付医療の歴史85)、コレラの治療に関して「虎狼痢治準(ころりちじゅん)」を著したりしています。しかしドラマではあまりコレラ治療に関して精通していなかったようになっています。
仁が周囲の住民に、コレラは患者の吐物や便から経口的に感染するので、患者を囲い込むこと、生の食べ物を絶対食べないこと、など予防のための生活習慣を説明しました。住民からは「皆でコロリをやっつけよう」との声があがりますが、これはまさに現在での「皆でコロナをやっつけよう」と聞こえます。
またドラマでは仁はその後、史実より60~70年前に青カビからペニシリンを作り出すことになっています。仁のように150年のタイムトリップは必要ないので、わずか数年~5年後の医療者でいいから誰か「抗コロナウイルス薬」と「抗コロナウイルスワクチン」を持って現在に現れてくれないか?などと期待を込めて空想してしまいますね。