医療あれこれ
偽薬でパーキンソン病がよくなる
本物の薬ではない偽薬のことをプラセボといいます。新薬の開発時、その薬の効果を調べるため、被験者には真実を知らせないで偽薬(プラセボ)を投与した人に比べて本物の薬を投与した人では治療効果が明らかに認められるという調査が行われます。また一方、偽薬(プラセボ)は病気を治療する本物の薬ではないのに、本物の薬を服用したと思い込んだ患者さんの症状が少しよくなることがあり、これをプラセボ効果といいます。特に「よく効く薬」と説明されたり「高価な薬」であったり、さらに薬のブランドによってよりこのプラセボ効果が現れやすくなる可能性が指摘されていました。
一方、パーキンソン病は、手指が細かく振るえたり(振戦)、関節や筋肉が固く動きにくくなり動作が少なくなる症状ですが、その原因は脳内のドパミンという神経ホルモン分泌が低下することためにおこります。
今回アメリカの研究者たちが、「高価な薬でパーキンソン病が治療されていると患者さんが信じ込むことによりプラセボ効果がより発現するかどうか」を調べた結果が報告されました(Espay et al: Neurology 2015, 84, 794-802)。研究対象は中等度のパーキンソン病患者さん12例で、初めパーキンソン病の本物の治療薬を投与しておいて、2回目には、「これは1回量当たりの薬価が1500ドルもする高価なパーキンソン病治療薬です」という説明をして、実薬ではない生理的食塩水を注射した群と、「わずか100ドルの安価な治療薬です」と説明して、同じくただの生理的食塩水を注射した群の2群間で生理的食塩水という偽薬(プラセボ)投与の効果に差があるかどうかをみたものです。
その結果は、高価と説明してプラセボ(食塩水)を注射した群では実薬投与の効果と統計的な有意差はなかったのに対して、安価な薬と説明してプラセボを注射した群では有意に効果が見られませんでした。つまり高い薬と信じ込んでプラセボ投与を受けると、本物の薬ではないのにある程度、症状がよくなるけれども、安い薬と信じてプラセボ投与を受けてもプラセボ効果は現れないというものでした。パーキンソン病発症の原因であるドパミン分泌には心理的影響が作用することが知られていますので、今回のようなプラセボ効果は現れやすいと思われます。
ところで、このような研究は患者さんを故意にだますようなことをしたわけですが、通常の臨床研究より厳密な妥当性の審査が実施されました。また実験終了後にはすべての被験者に対して真実が告知され、そしてより適切な治療が実施されました。さらに実験後の聞き取り調査で、「高価な薬剤に大きな期待を抱いていた」と振り返った人の方がより効果が現れやすかったということです。
出典:Medical Tribune
2015年3月12日21ページ