医療あれこれ

後期高齢者では飲酒が認知症予防になる?

 これまで適度の飲酒は健康維持に良い効果をもたらすと考えられていました。しかし言うまでもなく飲み過ぎは逆効果だから注意する必要があるばかりでなく、最近ではたとえ少量でも毎日ワインを飲んでいると少しずつ脳が萎縮してひいては認知機能の低下につながるとする米国からの報告もあったりして悩ましいところでした。これら飲酒の影響に関する多くの研究は壮年~中年の人を対象としたものでしたが、認知機能については飲酒の有無にかかわらず加齢による認知症発症のリスクもあることから、高齢者における飲酒の影響について詳細な検討が望まれていました。このたび大阪大学大学院の赤木優也氏、横山舞氏らは、75歳以上の日本の後期高齢者を対象とした飲酒による認知機能の変化について調査研究し解析結果をBMC Geriatiricsに報告しました。 (Akagi et al. BMC Geriatrics (2022) 22:158)

東京と兵庫の地域住民を対象におこなわれている高齢者長期縦断研究に参加登録している人のうち飲酒に関する情報がない人を除外した1200人余りを対象として解析がおこなわれました。飲酒頻度は、毎日、週に16日、週に1日未満、飲酒週間がないなどのグループ別に、またアルコールの種類はビール、焼酎、日本酒、ワイン、ウイスキーなどのグループ別に、認知機能評価がおこなわれました。

結果の概要として、週に16日飲酒する、つまり毎日ではなく週に1日は休肝日を設けている人の群では、毎日の群、飲酒週間のない群に比べて認知機能が高いことが判りました。しかし飲酒量との有意な関係はありませんでした。アルコールの種類でみるとワインをのむ群では認知機能が良好に保たれていると考えられましたが、ビール、焼酎、日本酒、ウイスキーなどの群では有意奈関係は認められませんでした。

これらの結果は、高齢者において毎日ではない程度の機会飲酒と、アルコールのうちでもワインは日本における後期高齢者の認知機能の高さと関連していると考えられます。しかし例えばコロナ禍の現在では外出が制限されるでしょうが、この調査データが収集されたころは、飲酒行動は外出して人と対面するという社会活動が盛んな後期高齢者における認知機能保護に良好な効果を及ぼしていたことも考慮する必要があります。またワインを飲む人については地中海料理を好む人の食生活が認知機能に影響している可能性など、さまざまな環境の条件も今後の検討課題として残ると思われます。