医療あれこれ
コロナワクチンとインフルエンザワクチン
新型コロナウイルス感染症は、オミクロン株の出現で今後どのように展開するのか注目すべき状況にあります。ワクチンの3回目接種が始まるこの時期に、前年は大きな流行がなかったインフルエンザについてもワクチン接種を必要とする時期にさしかかり、両者のワクチン接種時期が重なることが想定されます。日本を含む多くの国では、新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンの接種は2週間あけることが推奨されていますが、もし同時に接種した時には有効性にどのような影響があるのかについて明確な証明はありませんでした。
最近アストラゼネカまたはファイザー社の新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンの同時接種について、この二つのワクチンが同時接種されて安全かまた有効性にどのような影響があるのかを調べた論文が発表されています。これはイギリスでおこなわれた多施設共同比較試験で、すべての検討対象者は679人ですがほとんどがイギリス人で一部にアジア人を含みます。年齢は40歳~50歳代が多かったそうです。新型コロナウイルスワクチンはアストラゼネカ社製、ファイザー社製の2種類、インフルエンザワクチンについては3種類が用いられました。コロナワクチンは参加者全員が2回接種し、インフルエンザワクチンはワクチンの実薬が投与された群とプラセボ(本物でない偽薬)が接種されました。初回の投与から21日後にはインフルエンザワクチンについては、初めプラセボだった人には実薬のワクチンが、初め実薬だった人にはプラセボが接種されました。接種後の観察は接種1時間後の副反応や3週間後の抗体反応を評価しました。
観察結果は、コロナとインフルエンザが同時に接種された群と、インフルエンザは実薬でなくプラセボであったことからコロナ単独の接種となった群の比較検討では、接種後7日後での全身性の副反応の出現頻度には両群間に有意の差はありませんでした。副反応がみられた場合の状態変化ではいずれも軽症または中等症で重症者は認められませんでした。新型コロナワクチン接種を受けた人における抗体を評価したところ、各群を通してインフルエンザ実薬群とプラセボ群の間で新型コロナ抗体に有意な差はありませんでした。
以上の結果から、新型コロナ2回接種とインフルエンザワクチンの併用において、安全性に関する心配はなく、全身反応が見られたものに重症者はなく、ワクチンの効果ともいうべき抗体反応に対する悪影響を示唆するものはないことから、同時接種が有用である可能性が示唆されました。
ただし新型コロナワクチンが3回目となる場合は検討されておらず、他のインフルエンザワクチンが用いられた場合の詳細な検討もなされていないことから別途検討される必要性があるものと考えられました。
しかし今回の検討から、コロナとインフルエンザワクチンは両者同時接種でも安全で有効なものであることが示唆され、2週間の間隔を空けることなくそれぞれの必要性に応じてワクチン接種をすることが可能であることが示唆されました。
引用: 文献LANCET (November 11, 2021)
DOI: HTTPS://doi.org/10.1016/5014-6736(21)02329-1 についてのマウントサイナイ医科大学の山田悠史先生によるM3解説講演の内容を参照しました。