医療あれこれ
甲状腺機能障害と認知症は関連するか
これまで橋本病などの甲状腺機能低下症においては思考力低下や記憶障害などの症状があり、認知症ではないかと疑われることがしばしばありました。また甲状腺ホルモンの不足は動脈硬化の進展も考えられ、血管性認知症やひいてはアルツハイマー病の発症との関連も想定され、甲状腺ホルモンの補充療法はこれらの認知症症状を理論的に改善させ、治癒可能な認知症の一つとして期待されます。しかし甲状腺機能低下と認知症の関連を学術的に検討したこれまでの報告をみると一貫性のある知見ではありません。
今回、オランダのライデン大学研究者らはこれまでに報告されている大規模研究の甲状腺機能と認知症に関係する結果を解析して報告しました。(JAMA Intern Med オンライン版2021 Sept.7)
検討されたこれまでの報告は1989~2017年に実施された研究・調査でアメリカ人7万4565例のデータを対象として解析されました。甲状腺刺激ホルモン(TSH)、甲状腺ホルモン(遊離サイロキシン;FT4)の結果をもとに顕性および潜在性の甲状腺機能亢進症、甲状腺機能正常、顕性および潜在性の甲状腺機能低下症の5群に分類され各群間で比較検討されました。
全対象症例は年齢が57~93歳、女性は57.5%でした。これらの診断は、甲状腺正常が89.3%、顕性甲状腺機能亢進症は0.8%、潜在性甲状腺機能亢進症は3.4%、潜在性っ甲状腺機能低下症は5.6%、顕性甲状腺機能低下症は0.9%でした。
解析の結果、甲状腺機能障害と全体的認知機能の間には有意な関連は認められず、統計的有意差が認められたのは顕性甲状腺機能低下症と甲状腺機能正常群の比較のみでした。
今回の結果から研究者らは、甲状腺機能と認知症の発症には関連はなく、さらに詳細な解析からも甲状腺機能と認知症発症リスクにも関係はなかったと述べています。高齢の症例において甲状腺機能検査を実施し、異常が認められればこれを補正することにより認知症発症を予防する可能性があるのではないかと期待されましたが、認知症という観点のみで甲状腺機能を調べる意味あいはないと想定される結果だったということです。