医療あれこれ
パブロフの条件反射がおこる機序
動物には体に対する何らかの刺激があると、無意識のうちに決まった身体活動をおこす反応があります。例えば食べ物を目の前にすると意識して摂食行動を起こすとき無意識のうちに唾液が分泌されます。これは動物が生まれながらにして体に備わっている身体反応で「無条件反射」といいます。
これに対して生後一定の刺激を繰り返して受けることにより次第に体が反応するようになってくるものもあり「条件反射」といいます。有名なものにロシアの生理学者パブロフが19世紀末に発表したものですが、動物実験で犬に対してブザーなど一定の音を聞かせたあとに食べ物を与えることを繰り返していると、ブザーの音を聞かせただけで犬は唾液を分泌するようになるという話は有名なものです。
しかし犬の中枢神経にどのような変化がおこってこの条件反射ができてくるのかというメカニズムは明らかではありませんでした。パブロフは犬に音を聞かせて食べ物を与えるという訓練により大脳に音を聞きわける部分と唾液を分泌する部分に新たな結合が形成されてくるのだと考えました。音の刺激だけでなく、明かりをつけてから犬に食事を与えるということを続けると同じように光の刺激だけで唾液が分泌するようになりますが、これは犬の大脳の光を見る視覚中枢と唾液を分泌する味覚中枢の間に新たな結合ができてくると考えられましたが詳細は明らかではありませんでした。
このたび情報通信研究機構の吉原基二郎氏と櫻井晃氏らの研究グループは、ショウジョウバエを実験動物として使った実験の成果を「Current Biology」に公表しました。これによりパブロフの犬の実験を考察すると、唾液を分泌するという摂食行動をつかさどる細胞自体の情報処理が変化するものだということが明らかとなりました。この実験系を用いてさらに研究を進めると記憶に関するメカニズムが解明されるだろうと研究者らは述べています。