医療あれこれ
ワクチンについて
新型コロナウイルス感染症の予防対策に、ようやくワクチン接種が始まっています。緊急事態宣言発出など自粛生活で人の流れを抑制数対策が講じられていますが、医学的な予防対策としては有効なワクチン接種が重要です。具体的な内容はマスコミ、報道に譲るとして、ここではそもそもワクチンとは何かについて考えてみます。
最初にワクチンの歴史について考えてみましょう。いわゆるワクチンという名称で予防接種を初めて開発したのは免疫学の父といわれるルイ・パスツールで、その当時致死的な病気であった狂犬病のワクチンを開発したのです。このことは2012年12月8日付 医療の歴史(19)ワクチンの開発 でご紹介しました。しかし歴史的にみて現在でいう予防接種を世界で初めておこなったのは、致死の病 天然痘(痘瘡)に対する予防接種である種痘法を開発したジェンナーで、この業績により天然痘は地球上から撲滅されるきっかけを作ったのでした。(2013年1月2日付 医療の歴史(20) 天然痘撲滅への道)1796年のことで、パスツールの狂犬病予防ワクチンより90年前のことでした。種痘法も狂犬病ワクチンも両方とも現在のワクチンと決定的に異なるのは、病原体がウイルスであるということが判明されていない状態で予防接種がおこなわれている点です。
さて現在のワクチンにはどのような種類があるのかに話は移ります。まずワクチンといえば最初に思い浮かぶのがインフルエンザワクチンです。これは不活化ワクチンと呼ばれるもので、インフルエンザウイルスが体内で作用しないように不活化し接種するものです。これはインフルエンザウイルス自体を抑制するものではないため、理論的には直接感染を抑止するものではありません。つまりたとえ感染しても重症化しないような状態にすることが主な目的で使用されます。有効率は50%程度とされています。
次に麻疹や水痘の予防に用いられる生ワクチンです。これは弱毒化したウイルス自体を接種するものです。そのため不活化ワクチンに比べて圧倒的に強力で、90%以上の有効性があります。インフルエンザワクチンは毎年、流行の季節にあわせて摂取する必要がありますが、麻疹や水痘は一度免疫ができるとほぼ終身と思われる長期間の有効性を維持するものです。
新型コロナウイルスに対するワクチンはこれら従来のワクチンと異なり、メッセンジャーRNA ワクチン(mRNAワクチン)と呼ばれるもので、遺伝子DNAの情報を伝達するmRNAの正常な作用を阻害することにより、ウイルスの活性化を抑制して感染発症を予防するものです。現在日本で使用されているファイザー社のワクチンにおける有効性は95%といわれていますが、効果がいつまであるのかは現在のところ明確ではありません。また接種は1回のみではなく3週間後に2回目の接種が必要であることはご存じの通りです。
mRNAワクチンということで遺伝子DMAに影響があるのではないかと心配されるむきもありますが、mRNAは細胞内に入っていかないのでDNA事態に変化が及ぶことはありません。またワクチン作成過程で遺伝子組み換え技術が使われてはいないので、遺伝子情報に関わる心配はないとされています。
接種による痛みや発熱などの副作用が報告されていますが、これらの不利益をはるかにこえる有益性があり、何より現在このワクチン以外の確実な方法がありません。また現在のところワクチンの供給量が不足しており、すぐにすべての人が接種を済ませることはできませんが、コロナ撲滅のために機会が来ればぜひ接種を受けるようにして下さい。