医療あれこれ
サルコペニアは死亡リスクを倍増する
以前にこの項でご紹介しましたが、歳をとるにつれて筋肉量が低下し、筋力低下や身体機能低下が明らかとなるサルコペニアは高齢者の健康障害に影響する重大な要因です。(2013年6月10日付医療あれこれ)もともと欧米においては症例数も多く研究がすすめられていましたが、これ以後、日本においてもサルコペニアの詳細な研究報告がなされるようになりました。
診断基準については、アジア人向け診断基準も整備されています。(Asian Working Group for Sarcopenia; AWGS 2019)
それによると、①四肢骨格筋指数;四肢の筋肉量の合計を 身長(m)の 2 乗で割った値で男性は7.0kg/㎡未満、女性は5.4 kg/㎡未満、②筋力低下の指標として握力低値;男性28㎏未満、女性18㎏未満、③身体機能低下の指標として歩行速度低値;1.0m/秒未満。以上の3項目を満たすときサルコペニアと診断するものです。
このたび東京都健康長寿医療センター研究部長の北村明彦先生らは、65歳以上の人を対象としたわが国の高齢者サルコペニアの実態を調査研究した報告があり、日本におけるこの疾患の実態が明らかとなってきました。(Akihiko Kitamura et al. Sarcopenia: prevalence, associated factors,
and the risk of mortality and disability in Japanese older adults. 2021; 12:
30-38.)
発病率は前回ご紹介した時には男性で約5%、女性では約12%と記載しましたが、実際にはこれより多数であり、男性が11.5%、女性が16.7%でした。また年齢別に見たところ、75~79歳では男性21.5%、女性22.9%、80歳以上では男性32.4%、女性47.7%と加齢に伴い明らかに増加していました。
年齢以外でサルコペニアに関連する要因を検討したところ、男女ともに認知機能の低下が有意な因子であることが判明した。またサルコペニアの例では非サルコペニア群に比べて全死亡リスクが2倍以上高く、サルコペニア例はそうでないものに比べて2倍以上死亡しやすいことが明らかとなりました。同様にサルコペニア群では要介護状態となるリスクも1.5倍高いことも判ったのです。
これらの結果から、高齢者におけるサルコペニアを早期発見し、運動療法や食事などで可能な限りの対策を立てることが死亡例の抑止につながることが想定されます。