医療あれこれ

遺伝性早老症であるウェルナー症候群

202010月から、千葉大学と国際医療福祉大学の研究者らは、遺伝性早老症のウェルナー症候群の診療ガイドラインを世界に先駆けて老年医学の国際誌Geriatrics Gerontology Internasionalに公開したと発表しました。

 ウェルナー症候群は常染色体劣性遺伝という形式で遺伝する疾患です。早老症といわれるように、20歳代から白髪、脱毛、白内障など高齢者の特徴的形質が現れ、手足の筋肉や皮膚がやせて硬くなり急速に老化が進行する遺伝性の疾患です。患者数は700人~2000人とされていますが、世界中の症例報告の半数以上を日本人が占めるという日本に多数みられる疾患です。原因となる遺伝子はわかっていますが、どのように老化が進むのかという機序については明らかにはされておらず治療法はありません。

 1904年にドイツの医師オットー・ウェルナーにより初めて報告されたことからウェルナー症候群と一般に呼ばれています。さまざまな老化現象が現れますが、表面上だけではなく、糖尿病、コレステロールや中性脂肪の上昇や、動脈硬化が進行し、悪性腫瘍(この疾患の場合はガンよりも肉腫が多いそうですが)を合併して40歳代になると、この悪性腫瘍や動脈硬化性疾患である心筋梗塞などで死亡する症例が多数であるといわれていました。近年ではそれぞれの合併症に対する治療が行き届くようになり、寿命は延びてきましたが、それでも5060歳で亡くなる人が多いといわれています。

 今回の発表では、ウェルナー症候群に合併する症候のうち、

1.脂質異常症、脂肪肝、2.サルコペニア(高齢者で全身の筋力低下による歩行障害などがおこる)、3.糖尿病、4.骨粗しょう症、5.感染症、6.皮膚潰瘍、7.下肢潰瘍、8.アキレス腱の石灰化

8項目に関して、これまでの臨床論文を調査し最新の治療経験などを加えて、世界で初めて診療ガイドラインを発表したのです。この疾患は日本において症例数が多いことから、日本人研究家者の責務としておこなわれたものと考えられます。

 研究者らは、この情報を多くの担当者と共有することにより、明らかでなかったウェルナー症候群の詳細な病態解明、治療法開発に資するものであり、さらにこの疾患以外の人の老化や高齢者に増加する動脈硬化、ガン、糖尿病などの科学的理解にも貴重な情報をもたらすことが期待されると述べています。

(引用:千葉大学、国際医療大学 ニュースリリース、令和3120日)