医療あれこれ
薬の副作用、合併症をどうするか
日本でも新型コロナウイルス感染に対するワクチン接種が2月末までに始まるそうです。欧米ではすでに接種が始まっているところもありますが、全体的にみてワクチン接種を歓迎する人もいれば、副作用などに対する不安からあまり望まない人も多いようです。アメリカなどでは接種を好まない人のためにワクチン接種を受けた人には景品を出すなどの対応をしている州もあるそうです。
このワクチンは遺伝子情報に関連するmRNA技術を用いて開発された全く新しいタイプの薬剤も含まれることから、これまでとは異なり合併症、副作用が心配だとする考えも理解できます。日本は先日もご紹介しましたが(日本のワクチンへの信頼度は最低レベル 2020年12月4日付)ワクチン後進国であり有効かどうか以前に合併症、副作用などがない安全なものが第一であるという考えが極端にあり、積極的に接種を希望しないひとが多数います。
一般的に薬の副作用などは100%あってはならないというのは不可能で、たとえ1%以下であっても何らかの副作用があるのは当然だと思います。コロナ感染で死亡例も含む合併症がいいのか、リスクを考えてもワクチン接種を受ける方がいいのかは人によって考え方が違うでしょう。
話題は少しかわりますが、歴史的に見て薬剤の副作用を始めとした有害事象はどのように検討され、新薬が作られていったのでしょうか。18世紀までは、動物実験などで有効性が確認された新規薬剤はそのまま一般の発病者に投与され、大勢の人が薬剤の作用により命を落としました。その後、医療者たちはこれではいけないことに気づき、自分たちが自らその薬剤を服用を試みるようになりました。これはまさしく自己実験です。その結果、ひどい副作用に苦しんだり、中には命を落とした医療者も大勢いたといいます。
有名な話に、爆弾のニトログリセリンをなめてみた医師の話があります。その人はイギリス人医師フィールドで1858年のことです。その数年前、ニトログリセリンを始めて合成した化学者のアスカニオ・ソブレロは、その作用を確認するため舌でなめてみたそうです。すると額から首が激しく痛み出し、ひどい頭痛が出現しました。これはおそらくニトログリセリンによる血管拡張作用が原因ではないかと考えたフィールドは、このニトログリセリンが狭心症の治療薬になるのではないかと考え、少しなめてみたのです。案の定、頭が「爆発したような」ひどい症状が出現し、死ぬような苦しみを味わいましたが、仲間の処置によりなんとか一命をとりとめたのでした。その後、ウイリアム・マレルという若い医師が、ニトログリセリンの用量を少なくする工夫をして、フィールドと同じようになめてみたのでした。マレルの心臓はバクバクと拍動し激しい症状が出現しましたが、ニトログリセリンの血管拡張作用によるものと思い付き、研究を重ねて今では狭心症の治療薬としてニトログリセリン系の内服薬が有用であることが確立されています。自分自身のリスクも考えないで爆弾の原料をなめたというのは本当に貴重なことをしてくれたと思いますね。