医療あれこれ
ハンマーとダンス
年末年始、コロナウイルス感染者数は増加の一途をたどっています。政府はこれまでの方針を転換し緊急事態宣言の発出を(早急に)検討しています。この感染症とのたたかいはおそらく長期間となるでしょう。というのも直接ウイルスに対応できる方策として、ワクチンを導入してできるだけ早期に接種を開始したとしても、WHOのテドロス事務局長がいうように、ワクチン接種によりコロナウイルスを完全になくすわけにはいかないようです。
そこで必要になってくるのは、感染症の疫学で考えられている「ハンマーとダンス」の概念に則った根気強い対応ということになるでしょう。感染者数が急増した時に必要なのはできるだけ強力な処置であり、それが「ハンマー」です。しかし処置が奏功して患者数が減少に転じたとしても0にはなりません。緩やかな増減を繰り返し、グラフであらわすと上下の波形が続きます。これがすなわち「ダンス」です。
わずかな状態の変化を見逃さずに迅速な対応をとることができれば、緊急事態宣言のような「大きなハンマー」ではなく「小さなハンマー」で乗り切っていけるでしょう。しかし対応が遅れると「巨大なハンマー」が必要になってきて社会的、経済的ダメージが残ってしまいます。
昨年の第一波、第二派のころは、この先どうなってしまうのかという意識から、こぞって3蜜を避ける自粛行動がとられました。しかしそれに疲弊してきた以後は皆さんの危機感も薄れてきた感じがあります。
昨年の秋から冬に向かうとき、医療者の間で最も懸念されたのが、コロナとインフルエンザの同時流行がおこることでした。しかし幸いにもこの同時流行は現在明らかには認められていません。これは多くの人たちにおける感染症への対応の意識、つまりマスクや手洗い励行などが影響していると思われます。今後もこのようなことが辛抱強く続けられていくことを願うばかりです。
医療者側でもう一つ気がかりになるのは、高血圧、糖尿病などの慢性疾患治療中の患者さんのことです。慢性疾患の状況が良くないとコロナウイルスに感染した時に重症化の恐れが大きくなります。それまで定期的に続けられていた治療継続が、「コロナが心配だから」と受診を差し控えることは避けねばなりません。ぜひ適切な受診、治療の継続をお願い致します。