医療あれこれ
高齢者の精神疾患:せん妄 (1)
超高齢社会のわが国で、老年医学領域においても重要ないくつかの疾患があります。なかでも最近特に問題となっているアルツハイマー病を中心とした認知症はいうまでもありませんが、アルツハイマー病のように簡単には治癒を見込めない疾患とは異なり、早期に発見し治療することで治癒させることが可能な疾患が「せん妄」です。
せん妄は急性に、また一過性に発症し、適切な対応により数日から数週間で症状を改善することが可能です。しかし治療開始が遅れると永続的な脳障害が発生し意識障害の状態が遷延し、誤嚥などにより死亡に至る可能性もあるとされています。したがってせん妄は発症早期に発見し治療を開始することが求められる疾患です。
典型的な症状は、周囲に対する注意が障害されることです。ものごとに集中しそれを維持することができなかったり、他のものに転換する能力が低下します。また自分がどこにいるのかわからないといった見当識の障害がみられます。さらに一時的な記憶の欠損や、実際にはないものが見えるという幻視を中心とした幻覚が現れます。そしてこれらの症状は数時間から数日といった短期間のうちに出現し、一日の経過中で程度が変化するといった特徴があります。時間的にはせん妄を「夜間せん妄」と呼ばれていたことがあるように、夕方から夜にかけて症状が強くなる傾向があります。
(文献 末廣 聖、池田 学:認知症と高齢者精神疾患 臨床と研究 97,9,51-56)