医療あれこれ

慢性便秘症の新しい治療

 高齢になるのにつれて、便秘を訴える人が多くなります。腸閉塞など物理的に腸が狭くなっていると当然便秘になるわけですが、大腸の動きや神経作用によっても便秘はおこります。

排便はまず大腸に糞便が充満している感覚が中枢神経に現れて動き出すのですが、糞便が大腸の最も肛門よりである直腸まで押し下げられないと糞便の充満感が大脳に伝わりません。腹圧によって糞便を押し下げる力が必要なのです。運動不足があると腹筋の筋力は低下してこの糞便押し下げが低下します。

水分摂取が不足すると糞便は硬くなりスムーズな腸内の動きが低下します。大腸の働きは大腸内の水分量により糞便を適切な硬さにさらに調節することにあるのです。

また生活習慣や環境によって排便のタイミングが変化してきます。排便したい感覚を抑制しがまんを続けることにより、大腸(直腸)における粘膜の感受性が低下することにより、便意を感じにくくなってしまいます。

 さらに精神的ストレスにより自律神経のバランスが崩れ、大腸の機能は低下します。このこと自体がストレスとなって悪循環でさらに便秘は悪化してくるのです。

 最近、直腸粘膜の糞便充満感を感じ取る感覚が低下することの重要性が指摘されています。つまり通常より多量の糞便が大腸内(直腸内)に満たされないと、大脳に便意が伝わらず、糞便充満感という不快感だけが残り排便はより困難になってくるのです。近年、健康人と慢性便秘症における肛門排出能や直腸の感覚を比較検討する実験結果が報告されています。その結果、慢性便秘症の人は肛門排出能は低下し、直腸感覚は低下していることが明らかとなりました。つまり正常の人に比べて便意が発現しにくいことが便秘の一つの原因となっていると推察されています。さらに別の報告では若年者に比べて高齢者の方がこの便意発現が鈍いことが報告されています。

 さらにこの直腸感覚に大きな影響を及ぼすメカニズムとして肝臓で生成されて腸内に排出されることにより容易に消化や排便をおこなわせる胆汁酸の意義が注目されています。胆汁酸は肝臓で合成され腸内で脂肪分の消化吸収を促進する作用が発揮されたのち、肝臓に再吸収されるのですが、この胆汁酸再吸収を抑制する作用のあるお薬が慢性便秘の治療薬として有効であることがわかりました。新しい便秘改善薬として注目されています。

(参考)胆汁酸トランスポーター阻害薬 EAファーマ、持田製薬