医療あれこれ
ためこみ症について
少し以前より「ゴミ屋敷」という言葉がマスコミ報道で時々取り上げられています。いろいろなものを家の中にため込んで整理をしないことから、家中にものがあふれ、次第に通常の生活スペースが減ってくることから家の周りに物があふれてくることになってしまった状態です。周辺の住民からはあふれた物がゴミとみなされゴミ屋敷などと言われ大変迷惑を被ってくる状態です。
もともと人間の本能として周囲の物は必要な物として集めるという行動は通常見られるものなのです。それが度を過ぎると病的な状態に陥り、よく周辺住民とのトラブルを引き起こすことからマスコミのニュースとして取り上げられることになってしまうのです。このように収集癖がある一定レベルを越した場合、その家の住人は「ためこみ症」という病的状態に陥っていると考えられるのです。
ためこみ症は以前、強迫症といわれる一連の精神疾患の一つと考えられていました。強迫症は例えば手が不潔であると思い込み何度も手を洗うとか、外出時に家の施錠をしたかどうかが不安になり何度も確認するなどの症状があるものが一般的です。しかしためこみ症は清潔や整理整頓ができる強迫症とは少し異なる状態であることから、2013年にアメリカ精神医学会で「ためこみ症」という独立した疾患と確認されました。
特徴的な症状は、ためこんでいる物の実際の価値とは無関係に、その物をためこんでおくことが必要であると強く感じていることです。それを捨てることや手放すことを考えると著しい苦痛に襲われます。その結果として周囲の生活空間が物であふれて散らかり、場所が本来の目的ではないものとなってしまいます。例えば台所は調理する場所ではなくなり、ためこんだ古新聞の束が占拠する保管場所になってしまうのです。
ためこむ物としては、日用品、衣類、古新聞、古雑誌、チラシ、袋や箱などあらゆるものがあります。場合によっては、ためこみ症の一種として動物ためこみもあり、放置されたもともと他の人のペットであった犬、猫を連れ込んでくる結果、繁殖して自宅が動物屋敷になってしまいます。いずれにしろためこんだものが整理整頓されているわけではなく、愛好家によって対象物の価値が高いと評価されているコレクションとは異なります。
これらの行動について、本人に病識がある場合もない場合もあり、自分のためこみ行動に問題があることを認識していることも、そうでない人もいます。いずれの場合も、この行動は持続的に経過し、症状の程度は徐々に増悪し、自然に軽快していくことはあまり認められません。したがって何らかの治療が必要となり、薬物治療として抗うつ薬などが試みられていますが、有効性の判断は今後の問題として残っているようです。認知行動療法では個々の症例に直接出向するのではなく、オンラインによる診療なども試みられているそうです。
ためこみ症の有病率は2~6%と推定されていますが、現代社会の変化と関連して増加する傾向にあるようで、さらなる対処法の発展が望まれます。