医療あれこれ
日本人の名前がついた川崎病
先日の新聞報道で(2020年6月10日)、元日赤中央病院小児科の川崎富作先生が老衰のため95歳で永眠されたとありました。川崎先生は東京都出身で千葉大学医学部を卒業されています。日本赤十字医療センター在職中に、高熱があり体全体に発疹があり、イチゴのように舌が腫れた乳幼児の受診者に気がつきました。1967年に同様の症状を呈する50人の症例をまとめて、原因不明の疾患として学術発表したのでした。初めは症状から急性熱性皮膚粘膜リンパ節症候群(MCLS)という病名でしたが、MCLSはその後、発見者の川崎先生に敬意を表して国際的に川崎病(英語表記でも "Kawasaki Disease"と呼ばれています。)川崎というと神奈川県の川崎市があり、川崎病とは川崎市に発病者が多い公害病か何かと誤解されることもありますがそうではありません。病名に人の名前がつけられている病名は、外国人ではアルツハイマー病やパーキンソン病など多数ありますが、日本人の名前がついた疾患は慢性甲状腺炎で甲状腺機能低下症を呈する橋本病などが知られているものの多くはありません。
川崎病は日本国内で毎年1万5千人以上に新規発症が見られます。4歳未満の乳幼児に発症し、①原因不明の発熱(高熱)、②両眼球結膜充血、③四肢末端の発赤と硬性浮腫、④不定型の皮膚発疹、⑤口唇発赤、イチゴ舌、口腔粘膜発赤、⑥有痛性頸部リンパ節腫脹、といった症状から診断されるものです。これらの症状以外に、心臓の筋肉に血流を送る冠動脈に動脈瘤が形成されることがあり、一部の症例ではこれが原因で若年者において心筋梗塞を発症したり後遺症が残こったり、死亡例も多いことから川崎病が注目されたと思われます。原因は不明ながら、自己免疫の機序が関与すると考えられ、急性期に免疫グロブリンや副腎皮質ステロイドの投与が有効であるといった治療法が確立されています。
川崎先生は、旧厚生省の研究班の班長として原因の解明や診断や治療法の開発を進め、平成2年に日本赤十字社医療センターを定年退職して以降も、日本川崎病研究センターの理事長などをつとめ、川崎病の基本的病態解明に関する研究とともに、患者や親からの電話相談にも応じてきました。海外の学術集会で何度も講演され、国内では日本川崎病学会が設立されています。生前、自分が研究している疾患に、自分の名前がつけられているのは大変光栄なことだと述べられていたそうです。このように特定の疾患を対象とし定期的に学術集会が開催されている学会はあまりありません。
写真は2005年に開催された第8回川崎病シンポジウムが開催されたときのもので、海外の研究者の中央が川崎先生です。