医療あれこれ
オーバートレーニング症候群
健康維持のため有酸素運動などを毎日欠かさずおこなっている人が多くなりました。適度の運動はさまざまな病気の予防、回復に効果的に作用することが知られています。しかし運動が過度になると身体の負担が増加し健康維持とは逆効果になってくることが想定されます。運動をしすぎると、かえって身体的に悪影響が及ぶ一連の反応をオーバートレーニング症候群と呼んでいます。さらに運動をしすぎたとき身体的疲労のみならず、物事の判断など知的能力に影響がないのかをアスリートを対象として検討されました。調査研究をしたのはフランスのピティエ・サルペトリエール病院のMathias Pessiglione氏らで「Current Biology」9月26日オンライン版に公開されています。
実験研究に参加したのは長距離走など持久的スポーツの男性アスリート37人(平均年齢約35歳)で、3週間にわたって通常のトレーニングを行う群(18人)と1回当たりのトレーニング負荷を40%増やして行う群(19人)にわけて観察したのです。脳の疲労などはMRIで脳の部位による機能を評価できる方法を用いて評価しました。
その結果、疲れ果てるまで負荷をかけたトレーニングをした群では、「外側前頭前皮質」という大脳のうち物事を判断する時に重要な役割を果たす領域の活動性が低下することが明らかとなりました。また、金銭的な意思決定能力を評価したところ、運動負荷を増やした群では、時間がたてば獲得できる大きな報酬よりも、即座に得られる目先の報酬を獲得しようとする行動をとる確率が高くなる傾向が認められました。つまり簡単にいうと、過度の運動後は、物事の適正な判断をする能力が鈍くなることが判ったのです。
物事を正しく判断するには脳神経の状態が重要ですが、過度の肉体的疲労はこの判断能力に影響を及ぼすと思われます。持久力を必要とするスポーツはさまざまな健康へのよい効果があると考えられますが、運動をしすぎると脳の疲労が高度となり判断力が低下するという悪影響もあることを考えておく必要があるということでしょう。何事も「適度に」ということが必要なのでしょうね。
(引用:運動のしすぎが判断力を鈍らせる?国際医学短信2019年10月10日