医療あれこれ
握力低下は死亡率上昇と関連
人間の筋肉(骨格筋)は、身体を動かすこと以外に、たんぱく質を貯蔵したり、糖質を取り込むなどエネルギー代謝に重要な役割をもっています。そのため、悪性腫瘍や呼吸器疾患、腎臓病、さらに感染症などさまざまな病気を持つ人では筋肉量が減少していることが知られています。つまり筋肉量が落ちて、身体の動きとともにエネルギー源が同時に障害されると病気になるというわけです。今回、筋肉量の目安として筋力(握力)を指標として、もともとあった握力より低下がおこると病気の発生や死亡率が上昇するのではないかを調べることを目的とした大規模研究の結果、握力低下があると総死亡率が上昇するという研究成果が英国より公表されました。
調査研究を公表したのは、英国グラスゴー大学のC. A. Celis-Morales氏らで、解析に用いられた資料は世界各国の医学研究者が利用することができるUKバイオバンクの集積データです。この資料は、2007年4月から2010年12月の間から参加を受け付けた40歳から69歳のイングランド、ウェールズ、スコットランドの一般市民約50万人分の7年間の追跡結果が含まれています。調査項目は、総死亡率、心臓血管疾患、呼吸器疾患、がん(大腸がん、肺がん、乳がん、前立腺がん)による入院・死亡率と握力低下の関連が調べられました。
その結果、握力低下につれて、心臓血管疾患、大腸がん、肺がん、女性の乳がん、男性の前立腺がんの発症、COPD(慢性閉塞性肺疾患)の発症が統計学的に有意な上昇が認められました。そしてこれら疾患による総死亡率と握力低下の関係では、男性の前立腺がんによる死亡率以外、すべての項目でも有意な関連性のあることが明らかとなりました。つまり握力の低下は、総死亡率の上昇およびほとんどの疾患による死亡率上昇と関連があることが判ったのです。
これまで、筋力低下は加齢による転倒、さらに寝たきりになる率と関連することが想定され、またそのような調査結果が知られていましたが、今回の結果は各々の疾患発生と死亡率にも関連性があることが示されたのです。握力は血液検査などの検査項目とは異なり、どこでも簡単に測定できます。このような方法を有効に活用すれば疾患発症、死亡率などを簡単に予測することができると想定され、今後さらなる調査研究が期待されます。
引用文献:BMJ 2018; 361 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.k1651 (Published 08 May 2018)