医療あれこれ

胃内視鏡と人工知能

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 胃内視鏡検査は胃疾患の診断・治療に不可欠なものですが、以前は内視鏡を口から挿入されるのがつらい検査だと敬遠される人もいました。これに対して、細いファイバースコープを鼻から挿入する方法や、鎮静といって軽い麻酔により判らない間に検査をすませる方法などがおこなわれています。検査機器も精度が向上し、食道、胃、十二指腸粘膜のわずかな変化も感知するものとなっています。しかしいくら精密な画像を入手したとしても、その結果を判断するには熟練した専門医の診断能力が必要不可欠でした。そこでこれに人工知能(AI)を用いて精確な診断につなげる方法が開発されてきました。

 ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)は胃の奥にいるバクテリアで、その存在が胃がん、胃・十二指腸潰瘍、胃炎などあらゆる胃疾患を引き起こす原因となります。ピロリ菌が存在するか否かを診断するために、血液を用いた抗ピロリ菌抗体を測定したり、呼気試験や便検査などによる方法があります。内視鏡では胃粘膜の変化がピロリ菌によるものかどうかを診断することが求められますが、これを経験豊富な専門医でなくてもAIにより診断をつける可能性について調査した報告がなされています。

 胃内視鏡検査で撮影した1万枚以上の画像を使って、ピロリ菌感染が原因の胃炎かどうかを診断するとき、日本消化器内視鏡学会の専門医とAIで比較検討したのです。すると内視鏡専門医の診断には4時間かかり、正答率が約82%だったのに対して、AIは同じ画像をわずか3分あまりで診断し正答率は約88%だったそうです。つまり人の目よりもAIの方が早くて正確な内視鏡診断ができたという結果でした。

Shichijo S. et al: E Biomedicine, 2017,25, 106-111

著者らは、ベテランの内視鏡医に比較して、AIは同じ判断力を持ち、解析速度は人の能力をはるかに上回るものだと述べています。

 この検討は、胃がんの症例は検討対象から除外されています。しかし多くの場合、胃内視鏡で知りたいのはその症例が胃がんかそうでないか、ということであり、AIに胃がん判定の能力ももとめられますが、これについても検討・報告がなされていています。がん研究会有明病院とAIメディカルサービスによると、AI2296枚の画像を92.2%の検出率で、しかも47秒という速さで解析したといいます。病変のサイズが大きければ検出はより容易になりますが、直径6mm以上であれば検出率は98.6%になったそうです。(Hirasawa T. et al. Gastric Cancer on line 2018

 これらの論文をみると、医療に重要なのは人間よりAIが主役であるかのようにも見えます。しかし優秀な能力を持つAIを適切な方法で医療に生かしていくかについては熟練した専門医の技量が必要であることはいうまでもありません。

参考文献:日経メディカル、2018年3月号、13-15