医療あれこれ
ステーキハウス症候群
ある中年の男性が食事中に急に胸の痛みを訴えて苦しみはじめ、冷や汗をかいていることから、急性心筋梗塞ではないかと病院へ救急搬送されました。しかし病院で心電図や血液検査など一連の緊急検査をしましたが異常はなく、血圧、呼吸状態も異常はありません。原因検索のため胸部CTスキャンが施行されたところ、食道内に大きな腫瘍状の影が映ったのです。改めてどのような状況で症状が出現したのか調査すると、大好物のステーキを急いで食べたというのです。そこで内視鏡でその食道の塊を除去して無事帰宅したという話が医学雑誌に掲載されています。
(中尾篤典:ステーキハウス症候群、レジデントノート19、2018年2月号、P.2843)
ステーキハウス症候群は、大量の食物が食道の下部にくっついた状態をさす病名です。ステーキをよく食べる欧米からこの病名が使われ始めたのでしょうか。食事をするときにはよく噛んで食べなくてはいけないという戒めのような話です。急性心筋梗塞を疑われたこの男性の話は、「症状が出現した時の状況をよく聞いておけば心電図や血液検査などの無駄な(?)検査をしなくてもよかった」という診療の基本である問診の重要性を説いたものです。
しかし考えてみると、たとえ大好物であってもステーキを丸呑みする人はあまりいないでしょう。
食道に通過障害をきたす何らかの基礎疾患があることが問題です。さまざまな症例報告でみると、ステーキハウス症候群の原因として食道がんで物理的に食道が狭窄状態になっていることを始め、肝硬変のときに合併する食道静脈瘤を内視鏡的に処置した後の食道狭窄、あるいは逆流性食道炎、さらに食道を動かす神経の障害で発生する食道アカラシアという病気、また筋ジストロフィーなど多くの疾患が考えられます。また病気だけでなく、外部から胸部を圧迫するような衣類なども考慮する必要があります。
しかしステーキハウス症候群の予防は、時間がないとあわてて食べるのではなく、食べ物が安全に飲み込むのに十分なほど小さくなるまでゆっくりと噛むということが基本であることには変わりありません。