医療あれこれ

甲状腺ホルモン不応症

 甲状腺ホルモンの分泌について、以前にこの項でご紹介した甲状腺ホルモン分泌メカニズムの概略を下図に示しています。(下線部をクリックしてご覧になってください。)甲状腺ホルモン(FT3FT4)は、脳下垂体で生成・分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)の刺激により血液中に分泌されます。17thyroidhormon.jpg

この図からわかるように、バセドウ病に代表される甲状腺機能亢進症でFT3FT4分泌が多すぎれば、これを調節するためにTSHの分泌は低下します。逆に橋本病のような甲状腺機能低下症でFT3FT4が低下すると、この分泌を刺激するためTSHの分泌は多くなり、FT3FT4を増やすように作用します。

ところが、特殊な場合で甲状腺ホルモンFT3FT4が多いにもかかわらず、TSHは正常範囲である症例があります。この中に、遺伝性疾患である甲状腺ホルモン不応症があるとされています。甲状腺に限らずすべてのホルモンは体内で作用する臓器や部位が決まっていて、その場所にはホルモンが作用する受容体が存在し、この受容体を介して臓器がホルモンの刺激を受けて一定の働きをするしくみになっています。甲状腺ホルモン不応症は、甲状腺ホルモンFT3FT4自体は正常なのですが、受容体に問題があってFT3FT4の量が多いにも関わらず、十分な作用が出現しないものです。そのため症状はほとんど正常の人と変わらず、FT3FT4が多い時にみられるTSHの低下がないのです。

甲状腺ホルモン不応症は、1967年にこれを最初に報告した人の名をとってレフェトフ症候群と呼ばれることもあります。そして甲状腺ホルモン受容体の異常は、α型とβ型の2種類ある受容体のうちβ型に問題があることも明らかにされています。

 この疾患の発症頻度は日本人全体で100人ほどとされ、まれなものです。その多くは、受容体の異常があっても反応性に増加した甲状腺ホルモンにより、明らかな症状を示さず、経過が良くない例の方が少ないようです。