医療あれこれ

フレイルはメタボより危険?

 フレイルとは、以前にこの項で「フレイルティー」 frailty = 虚弱)としてご紹介したもので、2014年に日本老年医学会が「フレイル」という新しい呼称として提唱しています。脳血管疾患や転倒による骨折など急性のアクシデントがないにもかかわらず、75歳を超えると加齢による身体の衰弱が増加して筋力低下が増悪し外出回数が減少するなど日常活動量が低下してくる。さらにはこれらが関連して認知機能の低下まで引き起こしてくる状態をいいます。1119日付の毎日新聞に「フレイルの人は要介護リスクが2.4倍となり、メタボより影響が大きい」という東京都健康長寿医療センターの研究調査結果が日本公衆衛生雑誌に報告された、という報道がなされています。

 調査は2002年~2011年に群馬県草津町で65歳以上の高齢者健診を受診した人のうち、受信時にすでに要介護認定を受けている人を除いた1453人を対象として2014年まで追跡調査したものです。その結果、追跡が終了したとき、調査期間中に新たに要介護認定を受けた人または亡くなったりした人は計494人いました。健診受診の時にフレイルと判定された161人は、健診時にはフレイルでないと判定された人と比べて、要介護認定を受けたり死亡したりする危険性が74歳までの前期高齢者で3.4倍、75歳以上の後期高齢者では1.7倍で、特に前期高齢者で差がありました。前期、後期高齢者をあわせると調査期間中に新たに要介護認定を受けた人はフレイルではないと判定された人に比べて、フレイルと判定された人は2.4倍も多かったということです。

 一方メタボ(メタボリック・シンドローム)については、これまで40歳から74歳の人を対象にメタボ特定健診が実施されるなど、高齢化による自立度の低下に大きな影響があるとして対策がとられてきました。しかし今回の研究調査ではメタボと自立度低下には統計学的に有意な関連性はみとめられなかったということです。東京都健康長寿医療センターの北村明彦研究部長は「健康寿命を延ばすには、高齢者はメタボ対策といった肥満対策よりも、必要な栄養を取り、筋力を付けてフレイルを予防することの方が大切。さらにこれまでメタボ対策を中心としておこなわれてきた前期高齢者の健診内容も再検討すべき。」と話しているそうです。

 メタボ対策は、メタボという身体変化が直接問題となるのではなく、これが原因で心臓や脳血管の障害が発生してくるから将来への対策が重要という理念でおこなわれているものです。それに対してフレイルは、その判定がなされた時点ですでに何らかの日常生活に影響をおよぼす身体的変化があることです。従ってメタボとフレイルを同時に比較すると、フレイルの方が重要なのだという結論が導かれるのは、ある意味で当然といえば当然ではないかとも思われます。