医療あれこれ
レビー小体型認知症
10月9日付の本項でもふれましたが、脳細胞自体の変化によって発生する認知症のうち日本ではアルツハイマー病についで発生頻度が高いのはレビー小体型認知症(Lewy body disearse: LBD)です。アルツハイマー病は、認知症全体の約55%なのに対して、レビー小体型認知症は約15%の頻度であるとされています。病理解剖でみると大脳皮質にレビー小体と呼ばれる特殊なたんぱく質が蓄積されているのが特徴です。右上の写真はレビー小体の顕微鏡写真です。矢印で示したピンク色で同心円状の形をしたのがレビー小体です。ただしこのレビー小体蓄積がレビー小体型認知症発生の原因なのかどうかは意見の分かれるところです。
特徴的な症状は、手足が小刻みにふるえる振戦という症状や、関節が固くなる、前かがみ姿勢になって体が動きにくいなどパーキンソン病に特徴的なパーキンソン症状が出現することです。実はパーキンソン病の病理所見もレビー小体が中枢神経のうち中脳黒質に蓄積することが認められるものです。そこでレビー小体の蓄積部位は異なりますが、レビー小体型認知症とパーキンソン病の両者は同類の疾患と考えられます。
もう一つレビー小体型認知症の症状で特徴的なのは、アルツハイマー病で知られているような物忘れ(記憶障害)よりも、幻覚症状が先に出現してくることです。幻覚症状は、例えば実際にはそこに存在しない虫などの小動物が見えたり(幻視)、聴こえていない音や人の声などを聴く(幻聴)などがあります。また痛み止めなどの薬剤の副作用が出やすい、調子のよい時と悪い時の変動があるなどの特徴があるようです。
診断は、前回ご紹介したように、DSM-5の認知症診断基準は、認知症をきたす原因疾患の鑑別をおこなうことが大切です。またパーキンソン病の診断に有用なMIBG心筋シンチグラフィーがレビー小体型認知症の診断にも有用です。これはMIBGという物質を注射して心臓の交感神経の働きを画像で調べるもので、パーキンソン病では、MIBGの心筋へのとりこみが低下していることを確認できます。認知症症状があり、このMIBG心筋シンチグラフィーで心筋へのMIBGとりこみが低下していればレビー小体型認知症の診断はより確実なものとなることが想定されます。
治療は、残念ながら根本的治療はありません。一般治療として生活習慣を整えるなどで幻覚症状を緩和するなどの方法がおこなわれています。薬物治療については、アルツハイマー病の病状進行を抑制するドネペジル(アリセプト)がレビー小体型認知症にも有効だとして、2014年に医療保険の適応となっています。