医療あれこれ
海外旅行と感染症
最近、日本人において仕事やレジャーで海外への渡航者が増加しています。そこで問題となるのが、帰国する際に海外で流行中の感染症を日本国内へ持ち込む輸入感染症の動向です。
歴史的にみると、第二次世界大戦直後、帰還兵などによって国内へ持ち込まれた感染症がありました。1960年代になって高度成長経済となり、日本での輸入感染症の脅威は減少したかに見えました。しかしこの間、世界的にみるとアフリカでのエボラ出血熱やヒト免疫不全ウイルス(HIV)によるエイズの問題など一見日本とは無縁の遠い地域での重症感染症は新たな脅威となっていたのです。そして近年の海外出国者数の著増増加は日本人にとって大きな問題となりました。忘れられかけていることですが、1995年、バリ島で日本人観光客約300人がコレラに罹患するという事例もありました。逆に日本から海外に輸出されてしまう感染症に対する対策も求められるようになっています。例えば2007年になってカナダを修学旅行中の日本の高校生が麻疹(はしか)を発症し、アメリカ大陸では根絶されたはずの麻疹が日本人によって持ち込まれたと大問題になりました。
これらのことを背景として、「渡航医学」という新たな医学領域が導入されています。そして日本各地に専門クリニックが設置され、輸入感染症に対する医療とともに、出国者に対する予防対策が主要課題として取り上げられています。また逆に最近の訪日外国人の急増は同様の輸入感染症問題を大きくしています。
海外旅行者が少し注意することにより予防が可能な感染症も多くあります。例えば当然のことですが、海外で生水を飲まないことやできるだけ加熱された料理を食べることなどは、細菌性赤痢、コレラ、A型肝炎などの予防対策になります。うがい、手洗いの励行やできるだけ人混みを避けるなどは、現地人感染者からの飛沫感染によるインフルエンザや細菌性髄膜炎の予防対策です。またマラリア、デング熱、黄熱などの感染予防は蚊に刺されることが必要ですので、あまり皮膚を露出しない、殺虫剤を散布したり予防剤を塗るなどの対策があるでしょう。さらに行きずりの性行為や医療行為(注射針の穿刺など)に注意することは梅毒やHIV感染症などの性感染症の予防となります。さらに狂犬病の予防にはできるだけ動物に近寄らない、傷口から感染する破傷風の予防には傷口を消毒するなどの対策は、発展途上国のみならず全世界共通の感染症予防対策です。
引用文献:輸入感染症Up To Date. 日本内科学雑誌(2016)、105巻11号