医療あれこれ

腸内フローラの変化が高齢者疾患を引き起こす

Bacteroides.jpg 以前にこの項でもご紹介したように(626日付腸内細菌と糖尿病参照)「腸内フローラ」とは人間の腸内にある約100兆個の細菌群が菌種ごとに集まって微生物群生態系を形成したものです。腸内面は広大な面積で細菌群が集まっていることから「お花畑」を意味するフローラとよばれているのです。成人ではこの腸内フローラの構成変化が肥満や糖尿病を引き起こす原因となることを前回は説明しました。

 高齢者になると、この腸内フローラを構成する菌群数自体が成人の1/2から1/3にまで低下し、糖尿病以外に免疫機能低下から、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患や大腸ガンなどの発症に関与することが判ってきました。加齢とともに腸内フローラの変化する原因は味覚・嗅覚の低下、歯牙障害や咀しゃく・嚥下機能の低下、これらに伴う低栄養、さらに施設入所などによる生活環境の変化が考えられています。ひと口でいうと、これも以前にご紹介したフレイルティによるものと考えられます。いずれにしろ加齢により変化した腸内フローラがその人の健康状態低下に大きく関与しているのです。

 それではこれらを改善して高齢者の疾病予防をしていくにはどうしたらよいのでしょうか。現在進められている研究の一つに糞便中の必要な細菌群を増やすというものがあります。これをおこなうために健康な成人の糞便を高齢者に投与する「糞便微生物移植法」といわれる治療が研究されています。他人の糞便を体の中にいれるということでやや気分がよくないこともありますが、実際には健康な人に糞便を提供してもらい、繊維分などを取り除くためフィルターでろ過し、内視鏡を用いて大腸内に注入するというものです。糞便提供者は配偶者や家族としているそうです。2013年にオランダで感染性腸炎の人にこの糞便移植を実施したところ、抗菌薬投与で治療した人に比べて糞便移植を受けた人の方が治癒率は有意に効率だったとの報告がありました。これを受けて2014年から日本でも少しずつ臨床研究が進められており、有効性が確認されているそうです。ただしこの治療を受ける人の年齢や健康状態、生活環境は様々であり、これが正式な治療法として保険適用となるにはまだ少し時間がかかると思われます。

引用文献 新井万里他 日本老年医学会雑誌、53318-325 (2016)