医療あれこれ
「老衰」で死亡すること
老衰とは「老いて心身の衰えること」です。老衰死とは本来は、外傷や病気で死亡するのではなく、加齢に伴って心身が虚弱化して、自然に死亡する、つまり自然死のことをいいます。しかし近年、肺炎や脳卒中などの病気が正確に診断され、昔なら老衰死として扱われていたはずの高齢者の死亡原因が肺炎、脳卒中などの病気による死亡として計上されてしまうことが多くなっています。
下の図は厚生労働省の統計で、死亡数の年次推移を示しています。以前にもご紹介しましたが、これまで日本人の三大死因はガンなどの悪性新生物が圧倒的に多く、次いで心筋梗塞などの心疾患、脳血管疾患つまり脳卒中などでしたが、平成23年の統計から肺炎が死因の第三位になっています。 (2012年6月12日付医療あれこれ)
①悪性新生物、②心疾患、③肺炎、これはすべての年齢における死亡数ですが、90歳から94歳の年齢で見ると①心疾患、②悪性新生物、③老衰、の順となり老衰が三大死因に入ってきます。さらに95歳以上になると、老衰での死亡が第一位を占めるようになり、①老衰、②心疾患、③肺炎の順であることが別の統計資料で示されています。95歳以上であれば、肺炎や心疾患があったとしても、十分に年齢を重ね自然な死であれば老衰と言うことがある可能性もあります。
ところで、身体所見からみて高齢者における老衰の始まりは加齢による筋肉量減少ではないかと考えられています。つまり以前にもこの項でご紹介したサルコペニア(2013年6月10日付医療あれこれ)が発生して歩く速さが落ちたり、転倒しやすくなることが様々な高齢者の身体的機能低下の原因になると言われます。
さまざまな病気があったとしても、それが自然であり幸福な状況のもと死を迎えるということが理想的でしょう。そのためには高血圧や糖尿病などいわゆる生活習慣病を適切にコントロールしておくことが必要だと考えられます。これらの医療は単に寿命を延ばすという目的ではなく、自然で幸福な死を迎えるために必要なものなのです。
引用文献 遠藤英俊;老衰、日本医事新報No.4828、2016年11月5日、P.49