医療あれこれ
オーケストラ演奏者の難聴は?
携帯音楽プレーヤーで大音量の音楽を聴いている若者をよく見かけますが、大音量を聴き続けると、内耳にある聴細胞が障害されていき騒音性難聴を引き起こす可能性があります。騒音性難聴の典型的な例は、職業性難聴です。大きな音がでる工場の機械を操作する作業に従事している人は、年1回の健康診断における聴力検査で4,000ヘルツの高音域が聞きづらくなる症状が現れてきます。これを予防するため、騒音を発生する機械の横に防音壁を設けたり、従業者一人一人が耳栓を着用するように職場の産業医は指導します。
ところで大人数で構成されるオーケストラの演奏者、特にトランペットやホルンなど管楽器部門の人は、音楽の流れの中で大音量を直接耳にすることになるので、こういった騒音性難聴(もちろん音楽は騒音ではありませんが・・・)になる心配はないのか?という疑問もうかびます。
ある音楽愛好家が、大ホールの最前列でクラッシク音楽を鑑賞している状態での音量を測定した結果をホームページに公表していますが(http://community.phileweb.com/mypage/entry/1796/20090307/)それによると、ベートーベンの交響曲第5番「運命」第1楽章では最大音量は106.7デシベルだったそうです。この音量は、耳元での大声の叫び声よりもはるかに大きく、ジェット機の近距離での騒音よりわずかに低い程度のものです。騒音職場で85デシベル以上が計測されたとき、産業医学的に上述のような何らかの対策を実施することが法律で求められていますが、オーケストラ演奏者はそれより大音量にさらされるということになります。
従ってオーケストラ演奏者が難聴になる可能性がないわけではないのですが、問題はその大音量刺激が連続しているのかどうかということです。クラッシック音楽は大きな音(フォルテ)から静かな音(ピアノ)まで音楽の流れあありますので、長時間にわたって大音量を聴き続けることはないでしょう。これに対して、ロック系音楽はフォルテの連続、すなわち大音量の連続であることが多く、むしろこれらの音楽家は難聴になることに注意した方がよいと思います。音楽プレーヤーでのロック系の大音量を聴き続けている人も同様に要注意です。
引用文献:熊川孝三 日本医事新報No.4770, 67 (2015.9.26)