医療あれこれ
筋萎縮性側索硬化症(ALS)について
最近、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者さんについてのニュースがいくつかみられています。ALSは原因不明で進行性の難病である神経疾患です。遺伝性の病気ではありませんが、中年以降の発症が多いのですが若年者の発症もあります。筋力低下が四肢から始まって次第に体の中心まで進行します。筋肉が動かなくなる病気ですが、筋肉自体の異常ではなく、その筋肉を動かす神経が障害されるのです。最終的に呼吸に関係する筋肉が動かなくなり、自発呼吸ができなくなることから人工呼吸器を装着することが必要となります。気管内挿管をしたままの状態ですから、口や鼻からではなく気管切開をして首筋から直接気管に挿管した状態となります。自然に自分で声を出すことができなくなってしまいます。手足も動かない、声も出せなくなり、人との意思疎通は最後まで動かすことができる眼球運動に頼らざるを得ない状態となります。文字盤を目で追っていく動きから人に意思を伝えることができるだけになってしまいます。自分で生活できませんから100%の看護、介護が必要になるのです。そして現在のところ病状を劇的に改善する治療法はありません。
発病前には活発な活動をしていた人ほど、次第に動かなくなる自分の身体や、周囲の人に頼らざるを得なくなる不安などから病死ではない「死」を強く希望する人が現れてくることがあります。このような場合、病状が進行して、すでに自殺できる身体活動性はありませんから、他人から安楽死させてもらうことを希望することになってしまいます。先月報じられた事件は、進行したALSの患者さんで51歳女性が安楽死を希望して、二人の医師(一人は無資格のようです)に100万円以上の報酬を支払い、薬物投与により死亡させられたケースでした。安楽死には致死的作用をもつ薬物投与その他の方法などによる積極的安楽死と、延命のために必要な医療行為をあえておこなわずに死亡する消極的安楽死の二つがあります。日本では、回復の見込みがない状態で、本人または親等が近い親族からの明確な意思表明がある場合の消極的安楽死が容認される場合があります。しかしこの場合、意思表示があったとしても他人から積極的に死亡させられたものですから、嘱託殺人の罪に問われることになります。
以前から、ALSという致死的難病をもつ患者さんについて、「患者さん自身の死ぬ権利」を認めるための法整備がなされるべきだという一部の意見もありましたが、患者さん本人や関連団体あるいは医療者側からは、「死」を選ぶ道を作るのではなく、「生」を支える社会を作ることが必要というのが正しいことはいうまでもないでしょう。2000年以上前から医師たるもの自殺や安楽死には加担しないというヒポクラテスの誓いがあることは以前にもご紹介した通りです。