医療あれこれ
人工知能(AI)と医療
人工知能(AI)の技術開発により、をさまざまな分野での事業の正確性亢進、効率化を推進しようとする動きがあります。医療についても同様で、診断・治療にAIを活用した迅速で正確な医療をめざすことが検討されています。
昨年(2016年)夏のことですが、さまざまな治療法が試みられたけれど改善の徴候が全くみられなかった白血病の女性の診断が誤っていたことがAIにより判明したというニュースがありました。この患者データについて遺伝子解析用のシステムを用いて診断をやり直したところ、それまでに解析できなかった遺伝子異常が発見され、別の治療薬を用いた治療に切り替えると、病気の状態は快方に向かい退院するまでになったというものです。これは「AIが患者の命を救った日本初のケース」として注目を集め、AIによる新たな医療が有効であったことを示すものと考えられました。このとき用いられたAIシステムはアメリカのIBM社が開発を進めているもので「ワトソン」と呼ばれています。このことから判断の難しい症例があったとき「ワトソン君に聞いてみよう」というタイトルのネットニュースが流されています。日本でも医療に特化したAIが開発され医師の迅速な判断を支援するものという目的で実用化が検討されています。
しかしワトソン君にしても、他のAIシステムにしても、その基本的データとなるのは、専門家の人間が手掛ける臨床研究や集積された膨大な医療情報です。その基礎がないとAIシステムが勝手に勉強して人間の能力を超えた判断をすることはできません。コンピューターとプロの棋士が囲碁の対戦をしてプロの棋士が機械に敗北したというニュースもありましたが、これとは全く話が異なります。人間の体やその病気について迅速で正確な判断を下すということは、それに向けた長い経験や地道な研究、情報収集があって初めて可能になることです。将来、「人間は機械に支配される時代がやってくる」ということは可能性がほとんどないのであって、優秀な人間が優秀な機械を使用して社会が進歩していくことに誤りはないと思います。