医療あれこれ
高齢者の精神疾患:せん妄 (2)
前回に引き続いて、せん妄の発症要因や診断についてご紹介します。
せん妄を発症する原因とはどのようなものがあるのでしょうか。原因としては単一の原因というより多要因性で、以前より主として3種類の要因が知られています。
まず第一に直接因子として薬剤の影響です。特に中枢神経系に影響する睡眠導入剤やステロイド、覚せい剤、さらに薬剤ではありませんがアルコール摂取など、あるいはこれらの依存性から離脱する時の影響、また脳血管障害や脳腫瘍、頭部外傷、さらに重症の全身性感染症や心筋梗塞などの循環器疾患、悪性腫瘍などが考えられます。
二番目に誘発因子背景因子として、体の痛みや便秘、尿が出にくい、脱水、また視力、聴力が低下するなど、さらに抑うつや不安などの精神的要因や転居の際など環境変化、不眠などの睡眠障害があります。入院患者さんの場合で、集中治療室に入室したことを契機としてせん妄が発症することがよくみられますが、これはまさに入院治療中の環境変化がせん妄発症を誘発していると想定されます。
さらに三番目の要因は背景因子です。これはせん妄を発症する基礎となる因子で準備因子とも言われます。具体的には発症者本人が高齢者であることや認知症などの慢性脳疾患が存在することです。また以前にせん妄となった既往があることなども背景に存在することが多いのです。
治療として特別の薬剤を用いることはあまりありません。直接因子にあるように、神経系に作用する薬剤の合併症あるいは副作用としてせん妄が発症することを考慮に入れる必要があるからです。一般的治療として上述のような様々な要因を早急に改善することが求められます。つまりせん妄に至る原因や過程を改善することです。
ところで診断にあたって最も鑑別すべき疾患は認知症です。せん妄と認知症の区別で注目すべき点は、せん妄は急性に発症するのに対して、認知症は緩徐に現れます。また経過はせん妄は一過性のことが多いのですが、認知症は一般に慢性で徐々に進行します。幻視という幻覚症状がせん妄では特徴的にみられるのに対して認知症で認められることはまれです。さらにせん妄では日内変動がありますが、認知症ではないこと、意識障害はせん妄では合併しますが多くの認知症ではありません。
もちろん認知症にもさまざまな疾患が含まれ鑑別が容易でないものも含まれます。例えばレビー小体型認知症は、アルツハイマー型認知症ではまれな幻覚症状が現れます。またせん妄に特徴的な症状である注意障害もレビー小体型認知症でもよく認められる症候です。さらに上述のように認知症そのものがせん妄発症の背景因子であることなど、認知症の経過中にせん妄が合併して発症する場合も想定しておく必要があります。
せん妄は高齢者によくみられるものですが、認知症とは異なり適切な対処により症状改善が可能な経過良好の精神障害といえるでしょう。
(文献 末廣 聖、池田 学:認知症と高齢者精神疾患 臨床と研究97,9,51-56)