医療あれこれ
血管と血液(13) アスピリンは認知症に有効?
これまでアスピリンは、本来の痛み止め(血管と血液5)、血栓症の予防(血管と血液7)、がんの予防(血管と血液8)などと、その新たな効能・効果が見いだされてきたことをご紹介してきました。今回は、アスピリンが認知症(アルツハイマー病)の治療薬として用いることができるようになるかも知れないという話題です。
認知症のうち多数を占めるアルツハイマー病の人の大脳にはアミロイドβというタンパク質の異常集積があることが知られています。このアミロイドβがアルツハイマー病の原因であるとするには、まだ異論のあるところですが、アルツハイマー病の脳にはアミロイドβが集積されているというのは明らかな事実です。最近、アスピリンはこのアミロイドβの除去作用のあることが動物実験で証明されたという報告がなされました。
(Chandra et al. J of Neuroscience, DOI:
10.1523/JNEUROSCI.0054-18.2018)
マウスの脳細胞を用いた基礎実験で、アスピリンは遺伝子発現を調節することで、細胞内の異物処理をするライソゾームを活性化し、これがアミロイドβの除去につながることを見出しました。アスピリンの作用はこれまで細胞のアラキドン酸代謝系に対するもの(シクロオキシゲナーゼという代謝酵素のアセチル化による阻害)が関与するものであることが知られていましたが、新たに遺伝発現を調節するという作用機序が見いだされたのです。さらに実験的にアルツハイマー病になったマウスに少量のアスピリンを1か月間投与すると脳からアミロイドが除去されることが判りました。
ここまでの報告は、あくまでも動物実験に基づく結果であり、人間に応用できるのかについてはまだまだこれからの段階ですが、古くて新しい薬であるアスピリンが認知症予防・治療薬になる可能性を示したことは画期的なことだと思われます。