仕事が忙しいなど、十分な睡眠時間がとれない人が増加しています。一方で、時間的余裕があって、床に着いているのに寝付けなかったりして調子が悪いと訴える人がいます。両方とも睡眠不足ですが、通常「不眠症」と言われるのは、後者の方、つまり床に着いている時間は長いのに、十分な睡眠ができず、昼間の眠気や脱力感などがある人の状態のことです。右の図でも明らかなように近年、ストレス社会の影響があるのでしょうか、不眠症の発症は増加傾向にあります。
不眠症のタイプは大別して、① 床に着いているのになかなか寝付けない「入眠障害」、② 一度は寝付いてしまっても2~3時間で目が覚めてしまう「中途覚醒」、③ 朝早くに目覚めてしまう「早朝覚醒」、さらに、④ ぐっすりと眠れない「熟眠障害」の四つに分類されます。「睡眠はできていますか?」とお聞きしたとき、睡眠時間つまり床に着いている時間が十分あることから「大丈夫です」と返答される方でも、実はこれら四つのタイプのうちいずれかの不眠症であることも意外に多いと思われます。
不眠症の原因は、暑さ寒さや部屋の明るさなどの環境的要因や、悩みごとやイライラなどの精神的要因、また痛みやかゆみなど実際の身体的要因、さらにコーヒーなどのカフェインやアルコールが原因である薬理学的要因が考えられます。前回と前々回にご紹介した「むずむず足症候群」や「概日リズム障害」(次の記事参照)の他、少し前から鉄道の運転手さんなどで問題になっている「睡眠時無呼吸症候群」は明らかな不眠症の原因疾患です。ちなみにゴールデンウィークに長距離バスで大事故になった事例のバス運転手さんは「不眠症」ではなく、「睡眠時間の不足」だろうと思われます。
不眠症は「うつ病」の主要症状の一つですが、逆に不眠症があると「うつ病」発症のリスクが高まるという報告もあります。また、高血圧や糖尿病、メタボリックシンドローム発症率とも関係することが明らかにされています。不眠症を放置すると問題となる病気が発症する誘因となることは明らかで、適切な治療が望まれます。生活習慣改善とともに、先に説明した不眠症のタイプに応じて睡眠導入剤や抗不安剤を服用してもらうことが大切です。