医療あれこれ

その他の病気アーカイブ

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「めまい」を訴える方が、特に高齢者によく見かけられます。一口に「めまい」といってもいろいろなタイプがあります。例えば、体がグルグル回っているような感じになる「回転性めまい」や、体がグラグラ揺れている、あるいはふらつく感じのする「動揺性めまい」などです。


 回転性めまいの原因として最も頻度が高いのは、「良性発作性頭位めまい症」と言われるものです。その名が示すとおり、頭の位置を変えたときにめまいが発生する良性の疾患です。めまいのため気分が悪くなり、吐き気や場合によっては嘔吐することもありますが、横になって安静にしているとすぐに症状が消失します。また、耳鳴りや聴力低下など、耳の症状を伴うことがないのが特徴です。原因として、耳の奥にあり体のバランスを取っている三半規管の異常という説があります。三半規管の中にある炭酸カルシウムでできた耳石がありますが、それが本来の位置からはずれて体のバランスを崩し、めまいという症状を起こすというものです。


 良性発作性頭位めまい症の治療は、「良性」ということば通り、安静にすることによって比較的早いうちにめまいはなくなります。最近では浮遊耳石置換法(エプリー法)といって、頭位を変換することにより三半規管の中で遊離した耳石を元にもどす方法も開発されています。


 同じく回転性めまいが生じる疾患でも、聴力低下や耳鳴り、あるいは耳が閉塞した感じなどを伴う場合は、内耳の病気が考えられます。メニエール病もその一つで、これに対してはステロイドホルモン剤などの薬物療法が行われます。


 また動揺性めまいは主として神経の異常で起こります。例えば小脳の異常です。小脳は身体の平衡感覚を保つ役割をもっています。小脳の働きにより、まっすぐに立っていたり、歩いたりすることができるのですが、この小脳に何らかの異常があると、酔っ払いがまっすぐに歩くことができないような状態になり、体のグラグラ感が出現してきます。


 その他、精神的なストレスから動揺性めまいを生じることもあり、自律神経のバランスが崩れたことによるものと考えられています。また何らかのお薬が原因でめまいが起こる場合や、うつ病などの精神神経疾患が基礎疾患として存在する場合もあります。


 良性発作性頭位めまい症などのように、自然によくなる場合を除いて、めまいの原因を調べることが必要になってきます。


厚生労働省が今月発表した平成23年の調査結果で日本人の死因は、多い順に悪性新生物(ガン)、心疾患、肺炎となりました。肺炎が死因の第3位となるのは昭和26年以来のことです。長年、三大疾患の一つとされてきた脳血管疾患(脳梗塞や脳出血)は、わずかの差で第4位に転落しました。

肺炎は戦前には日本人死因のトップだった時期もありました。しかし衛生環境が改善し、また、よい抗生物質が使用されるようになったこともあり、昭和24年から昭和26年に第3位となった後、一時は第5位以下となりました。昭和50年から平成22年までは第4位でした。厚生労働省の担当者は「高齢化が進み、肺炎で亡くなるお年寄りが増えたのではないか」と推測しています。

平成22年まで第3位だった脳血管疾患は決して減ったのではなく、むしろ数的には増加しています。それよりさらに増加したのが肺炎で、その順位が逆転したのです。脳血管疾患が発症してもそれが直接原因で亡くなる方は増加しなくなったのは事実でしょう。そのかわり以前に脳血管疾患にかかったことのある方が歳をとられて、肺炎をおこして亡くなるという例がかなり増加したのではないかと思います。

death.jpg 図は厚生労働省が公開している日本人における死亡原因の年次推移を示すグラフです。昭和25年まで日本人の死因第1位は結核でした。グラフに示してある年より以前の戦前では毎年の調査結果は不明ですが、やはり結核が第1位の年が多く、先に説明しましたように肺炎が死因のトップだった時期もありました。結核はその後、よい抗結核剤が使用可能となり激減します。

 結核についで第1位になったのは脳血管疾患です。脳血管疾患のうち日本人は塩分の多い食事などで高血圧になる人が多く、これが原因で脳出血が多いという特徴がありました。しかし食生活の改善がすすみ、また健康診断などで高血圧が発見されてこれを治療するようになると脳出血は激減しました。そのため死因としての脳血管疾患全体の数は減少に転じました。

 脳血管疾患に代わって死因第一位になったのは悪性新生物(ガン)です。グラフで明らかなようにガンによる死亡は増加の一途をたどっています。次いで第2位を占めガンと同じく増加傾向にあるのが心筋梗塞などの心疾患です。これらの病気を予防する、あるいは早期に発見し治療することが重要です。

 ところで、これらの死因はすべて病気ですが、本来、病気にはかからない方がよいのは当然です。たとえ病気にかかってもそれが原因で死亡することがないようにしなければなりません。そうすると歳をとっていつか亡くなるときの死因は「老衰」と死亡診断書に書かれるわけですが、老衰は高齢者をのぞいて下位になっています。すべての人が健康に生きるようになると老衰が第1位となるはずで、常にこれをめざすのが私たち医療者の務めなのだと思います。

高齢者の便秘

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 便秘を訴えるお年寄りは多くいらっしゃいます。厚生労働省の調査でも、65歳以上の人では、人口千人中、男性で76.5人、女性で96.1人とされていて、65歳以下の人に比べて明らかに効率です。

 疾患としては、明確な便秘の定義はありません。一般的には、排便回数の現象、排便量の減少、便が硬いなどの症状があるものをいいます。しかし腹痛やお腹が張るなどの症状を伴う場合や、排便時に強くきばらないと排便できないような状態、排便が不十分で便が残ったような感じが強い場合などさまざまです。

 分類としては、その時だけの急性便秘と、常に症状が続く慢性便秘の二つに分けることができますが、便秘の発生する機序でみると、腸が閉塞しかかっている腫瘍や炎症などによるもの(器質的便秘)と、腸の動きが鈍くなっているもの(機能的便秘)に分類することができます。その他、神経疾患などの病気の合併症状として便秘がみられることもよくありますし、ある種のお薬(例えばうつ病の薬や精神安定剤など)の中には腸の動きを抑制して便秘という副作用が発生するものもあります。

 いずれにしても、高齢者は、日々の運動不足や日常生活動作が若い人に比べて少なくなっていますから、腸の運動や緊張が低下し、便秘になりやすいと思われます。また、大腸の知覚が低下し、便がたまっているのに便意を感じない。そのため便が固くなりやすいことや、腹圧が弱くなって排便しにくい状態をより悪くすることも便秘の要因として考えておく必要があります。

 便秘の治療ですが、原因となる疾患がある場合はまずこれに対する処置が必要です。またお薬が原因である便秘の場合、このお薬を中止し、ほかのものに変更するなどの対処を考えます。明らかな原因がなく、腸の動きが鈍くなっている機能的便秘の場合は、まず生活習慣を変えてみることが重要です。具体的には、毎日、朝食後に排便をする習慣をつける、食物繊維の多い食事や、水分をしっかり摂る、さらに腹圧を少しでも高めるような腹筋や腹式呼吸などを試みてみることも有効なことが多いと思われます。

 これらの一般療法で、便秘の改善がない場合、便秘薬を用いた薬物療法ということになりますが、先に説明しましたようにいろいろなタイプの便秘がありますので、便秘の状況やその他の症状を考慮して薬剤を選択することが重要です。


不眠症

sleep.jpg 仕事が忙しいなど、十分な睡眠時間がとれない人が増加しています。一方で、時間的余裕があって、床に着いているのに寝付けなかったりして調子が悪いと訴える人がいます。両方とも睡眠不足ですが、通常「不眠症」と言われるのは、後者の方、つまり床に着いている時間は長いのに、十分な睡眠ができず、昼間の眠気や脱力感などがある人の状態のことです。右の図でも明らかなように近年、ストレス社会の影響があるのでしょうか、不眠症の発症は増加傾向にあります。

 不眠症のタイプは大別して、① 床に着いているのになかなか寝付けない「入眠障害」、② 一度は寝付いてしまっても23時間で目が覚めてしまう「中途覚醒」、③ 朝早くに目覚めてしまう「早朝覚醒」、さらに、④ ぐっすりと眠れない「熟眠障害」の四つに分類されます。「睡眠はできていますか?」とお聞きしたとき、睡眠時間つまり床に着いている時間が十分あることから「大丈夫です」と返答される方でも、実はこれら四つのタイプのうちいずれかの不眠症であることも意外に多いと思われます。

 不眠症の原因は、暑さ寒さや部屋の明るさなどの環境的要因や、悩みごとやイライラなどの精神的要因、また痛みやかゆみなど実際の身体的要因、さらにコーヒーなどのカフェインやアルコールが原因である薬理学的要因が考えられます。前回と前々回にご紹介した「むずむず足症候群」や「概日リズム障害」(次の記事参照)の他、少し前から鉄道の運転手さんなどで問題になっている「睡眠時無呼吸症候群」は明らかな不眠症の原因疾患です。ちなみにゴールデンウィークに長距離バスで大事故になった事例のバス運転手さんは「不眠症」ではなく、「睡眠時間の不足」だろうと思われます。

 不眠症は「うつ病」の主要症状の一つですが、逆に不眠症があると「うつ病」発症のリスクが高まるという報告もあります。また、高血圧や糖尿病、メタボリックシンドローム発症率とも関係することが明らかにされています。不眠症を放置すると問題となる病気が発症する誘因となることは明らかで、適切な治療が望まれます。生活習慣改善とともに、先に説明した不眠症のタイプに応じて睡眠導入剤や抗不安剤を服用してもらうことが大切です。

むずむず足症候群

TH_LIFD026.JPG 夕方や夜になると、足が火照る、足に虫がはっているような違和感を感じる、しかし足を動かすとこれらの症状が改善するといった症状はありませんか? このような方は「むずむず足症候群」、正式病名として、下肢静止不能症候群(レストレス・レッグス症候群)といわれる病態である可能性があります。

 「むずむず足症候群」の症状は、①足を動かしたいという異常感覚がおこる、②安静にしていたり、横になったりすると症状が増悪する、③足を動かすと症状がよくなる、④症状は夕方や夜になると増強する、などがあります。日本人では3~5%の発症率で、男性より女性の方がやや多く、年齢を重ねるにつれて増加してきます。

 原因には、ドーパミンというホルモンが作動する神経経路の障害や、鉄分の不足が関連するとされています。このため、同じくドーパミン不足によって発症するパーキンソン病や、鉄不足が原因の貧血患者さんにも同様の症状が見られることがありますが、これらの原因疾患がない人の場合の方が多いようです。

 夜間、足の症状で睡眠の障害がおこることから、昼間の眠気や、疲れた感覚があり、日常生活に支障がでることが大きな問題となります。そこで「むずむず足症候群」に対して、睡眠障害への対策と日常生活を改善することを大きな目的として治療が行われます。

 ドーパミン関連の新しいお薬があり、これの服用を開始してから1週間目でも症状が改善するという治療成績が発表されています。当院でもご相談をお受けしますので、もし気になる症状があるようでしたらお申し出ください。

time.jpg 人の体の中には時計があり、一日の生活リズムをコントロールしています。といってももちろん本当に機械の時計がセットされているのではありません。その機能の中心は脳内にあって、時計遺伝子と呼ばれるタンパク質の量が増減することにより、一日の生活リズム(概日リズム)が刻まれています。

 体内時計は脳内に存在するだけでなく、体中のいろいろな臓器に存在することも解っています。一日の生活リズムにおいて、食事をすれば消化管が働き、運動すれば筋肉を使うといったように、その人の活動にあわせて体内時計が効率的に働いているのです。

 概日リズムの乱れが不眠症の原因にもなります。例えば海外旅行での「時差ぼけ」や夜勤で交代制勤務をしている人の睡眠障害がこれにあたります。

TH_TREH021.JPG さてこの度、膀胱にある体内時計が、排尿のリズムを調節していることが、京都大学や兵庫医科大学の研究チームにより解明されイギリスの科学雑誌に発表されました。腎臓で作られた尿は袋状の膀胱にたまり、これが一杯に膨らんだとき人は尿意を感じてトイレに行きます。しかし排尿の回数を日中と夜間とで比べると、夜間の排尿は多くなりません。これは体内時計の作用で、昼間は膀胱が縮んで、尿をあまりためないため排尿回数が多いのですが、夜間は膀胱が縮まず尿を多くため、排尿回数が少なくなり十分に睡眠ができるようにしているということです。このリズムが崩れたとき夜尿症(おねしょ)や夜間の頻尿がおこると考えられます。報道によると、研究チームの兵庫医科大学泌尿器科学の兼松准教授は「新しい薬や治療法の開発につなげたい」と話しているそうです。