医療あれこれ

生活習慣病アーカイブ

久山町研究

 福岡県のほぼ中央部、福岡市に隣接した場所で、周囲を山に囲まれた緑豊かな久山町ところがあります。久山町研究とは、九州大学医学部第二内科が、脳出血の原因を究明するため、町民の人全員を対象として臨床研究をし、多くの優れた成果を発表しているものです。

 臨床医学は、理屈では解っていても本当にそれが事実なのかを調べるためには、同じ条件で生活する人たちを対象とした臨床研究が不可欠です。久山町研究は日本においてしっかりとした方法論で成果を挙げている最も有名な臨床研究の一つです。

 1961年にこの研究は始まりましたので、50年経過したことになります。1950年代、1960年代当時は脳卒中は日本人の死因で第一位でした。(612日付けで公開した医療あれこれ「肺炎が死因の第三位んになりました」の記事に厚生労働省が発表している死因の年次推移のグラフを示してありますので、参照してください。)昔は、「脳出血をおこした人は動かしたら危険だ。救急車で病院に運んでもいけない」といわれており、1961年もこんな時代でした。

今のように頭蓋骨の中を輪切りの写真で観察するCTスキャンやMRIがなかった時代ですから、脳出血と診断を確定するためには、患者さんが亡くなった後、死因を調べるための解剖(剖検といいます)をして、生前できなかった確定診断を行ったのです。

 何が原因で脳出血がおきるのかを調べたところ、高血圧が最も関連が深い危険因子であることが判りました。理屈から考えるとこれは当たり前のことのように思えますが、50年前は、今では当たり前の「血圧を測定する」という習慣もなかったそうです。そこで高血圧の治療を徹底して行うと、脳出血は減少する結果が得られ、今では当たり前の事実が証明されたのです。

 その後、高血圧治療は続けられましたが、1980年代の後半になると、脳卒中の発生頻度は減少しなくなりました。九州大学の医学者たちは、さらに他の危険因子を解析し、肥満や糖尿病、さらにコレステロールが多いなどの今で言う「メタボリックシンドローム」に当たる危険因子を究明して行ったのです。これら新たな危険因子は、脳卒中のうち、脳血管が切れておこる脳出血ではなく、脳血管がつまってしまう脳梗塞の危険因子であることが明らかとなりました。統計結果でも、脳卒中のうち脳出血は著明に減少しましたが、脳梗塞は増加しています。このように時代とともに発生する病気は変化していきます。

 久山町研究は、現在も続けられていて、認知症発症の研究や、遺伝子研究などにも発展しているそうです。私たちにおこる病気の原因がこれからも詳しく調べられ、新たな成果がどんどん発表されていくことが期待されます。

 アミノ酸はタンパク質の構成成分で20種類あります。この度、血液に含まれるアミノ酸濃度のバランスを調べることによって、生活習慣病のメタボリックシンドロームを早期に発見することができる可能性のあることが、味の素や三井記念病院の研究チームにより発見され、国際肥満学会の医学雑誌に発表されました。

 アミノ酸の濃度バランスの変化から病気を診断する方法は、これまでにも「アミノ・インデックス技術」と呼ばれ、これまでにガンの診断ができるのではないかと研究が進められています。この技術を心臓や血管の病気を発症する最大の危険因子であるメタボリックシンドロームの診断に役立てようとするものです。

TH_LIFD024.JPG メタボリックシンドロームの診断には、内臓脂肪の蓄積があることを調べる必要があります。内臓脂肪面積を測定するには、腹部のCTスキャンなどを撮影する必要がありますが、メタボ検診で簡便に内臓脂肪蓄積をみる方法として、日本では健康飲料のテレビCMによく出てくる、お臍の周囲径を測定する基準が設けられています。男性では85 cm、女性では90 cmが内臓脂肪面積100 平方cmに相当することが多くのデータを基に決められ、これより多いと内臓脂肪蓄積ありと診断します。ちなみにこの男性 85 cm、女性 90 cmは不適切ではないかという指摘も多く見直しが検討されていましたが、今年度は公式にこの基準をそのまま使うことが決まっています。しかしこれで正確に内臓脂肪蓄積が診断されているかというと必ずしも完全ではありません。

 そこで、血液検査によって内臓脂肪蓄積が証明される方法が確立されれば、より正確なメタボリックシンドロームの診断が可能になることから、この臨床応用を目的として今回の「アミノ・インデックス技術」を使った方法の研究が開始されたのです。多くの人を対象として研究が進められ、血中アミノ酸バランス解析により内臓脂肪面積が特定されることが明らかになりました。

(詳しくは味の素のHPをご覧下さい。

http://www.ajinomoto.co.jp/press/2012_05_28.html


 これを実際の臨床に取り入れられるためにはもう少し時間がかかりますが、有用な方法と思われます。とくに明らかな肥満はないけれども実際には内臓脂肪蓄積があり、「かくれメタボリックシンドローム」と言われる人たちの判別に効力を発揮することが期待されています。

ガンの予防

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 日本人の死亡原因第一位で年々増加し続けているガン。すべてのガン死亡率では、50歳代から徐々に増加し、男性では60歳、女性では70歳を超えると急激に上昇します。つまりガンは高齢者の病気であるといえるでしょう。

 ガンの予防はどこまで可能か?ということですが、その前提としてガンの原因を考えておく必要があります。ガンの発生は生活習慣に関係するものと、感染症に由来するものの二つに大きく分けることができます(右の図)。

 生活習慣関連では、言うまでもなく喫煙は最大の危険因子です。他の人が吸っているタバコの煙を吸う「受動喫煙」も大きな原因で、禁煙推進と同時に完全な「分煙」が求められます。

大量のアルコールも発ガンに関係します。毎日、日本酒に換算して3合以上の飲酒をしている人のガン発生率は飲まない人の1.6倍にもなり、飲酒と喫煙の両方が重なると倍増するとされています。例えば、一日30本以上のタバコを吸い、3合以上のアルコールを飲み続けて30年後には、食道ガンの危険性は約50倍になるそうです。肉類ばかり食べている肥満の人が、飲酒を続けていると大腸ガンの危険を上げる要因ということもはっきりしています。

 生活習慣由来のガン予防には、①禁煙、②アルコールは飲みすぎない、③運動などにより肥満を予防する、といった生活習慣の改善が必要となります。ただ言うだけなら簡単ですが、なかなか実際問題として難しい部分もあります。さらに自分では完全に良好な生活習慣をしていると思っていてもガンの発生を100%予防できるとは言い切れません。

 一方、感染症由来のガン発生を予防することは、理論的に、はるかに簡単です。感染源を断ち切る治療や、ワクチン接種により抑制ができるからです。感染症由来のガンとしては、①肝炎ウイルスによる肝臓ガン、②ヒト・パピローマ・ウイルス(HPV)による子宮頚ガン、③ピロリ菌による胃ガン、などが考えられます。B型肝炎やC型肝炎ウイルスに対する治療をする、若年女性にHPBのワクチンを接種する、ピロリ菌の除菌をするなど明確な対応が可能です。

 これらのガン予防は「一次予防」と言って、ガンの発生そのものを予防することです。これに対して、ガン検診などによる早期発見・早期治療は、ガンという病気にかかってしまったけれど、それが重症化し死亡の原因になることを防ぐ「二次予防」と言われるものです。一次予防をしておいて、検診で二次予防をすることが大切なことだと考えられます。

(文献 浅香正博:日本医事新報、201247日号、P.28


高尿酸血症・痛風

 痛風は足の親指の付け根などが腫れて痛む、その痛みは風に当たっても痛いほど激しいことから「痛風」と呼ばれます。その原因は血液中の尿酸値が高くなることで、尿酸塩が針状の結晶となって関節に沈着して、炎症を起こしたものです。つまり尿酸値が高い高尿酸血症は痛風の原因になるけれど、厳密に言うと高尿酸血症イコール痛風ではありません。関節の激痛が出現する痛風発作(関節炎)がおこった状態が痛風です。

TH_LIFC022.JPG痛風は昔からアルコールと美食が原因で発症することから「ぜいたく病」などと言われてきました。血液中の尿酸はプリン体という物質が分解されてできます。アルコール、特にビールにはプリン体が多く含まれていますので、飲みすぎると尿酸値が上昇します。それだけでなく、アルコールは尿酸の合成を促進し、尿酸が腎臓から尿へ排泄されるのを阻害することから、さらに状態を悪くしてしまうのです。また肉など美味しいものにはプリン体が多く含まれており、これらの食物を多く食べると尿酸が高くなります。

 プリン体を食べたり飲んだりして尿酸が高くなるだけではありません。プリン体は筋肉を動かすときのエネルギーを伝達する物質であるATP(アデノシン3リン酸)のもとになる物質です。そこで激しい筋肉運動をすると尿酸値が上昇することになります。(ただしジョギングや水泳などの有酸素運動では尿酸値の上昇はないと言われています。)また血液の病気で白血球が血管の中で壊されたりすると、白血球細胞から尿酸が血液中に放出され高尿酸血症の原因になります。

 また尿酸はこれら身体活動の結果生じる言わば老廃物で、体にとって必要なものではありません。そこで腎臓から尿中にこしだされて排泄されるのです。そこで腎臓の機能が低下した状態では尿酸値は上昇します。さらに悪いことに尿酸の結晶は腎臓に沈着して腎臓の機能を低下させてしまいます。

 このように、高尿酸血症は、①プリン体摂取の過剰、②体内での生成過剰、③腎臓からの排泄低下、という三つの原因でおこると考えられ、それぞれのタイプに応じてお薬などの治療法が選択されています。

TH_TRED042.jpg ところが、今月、イギリスの科学雑誌に、尿酸は腎臓から排泄されるだけでなく、腸から便の中に排泄されるという新しい事実が発表されました。発表したのは東京薬科大や防衛医大などの日本人チームです。発表者によると、「今までの治療法だけでなく腸の動きを対象とした生活習慣を検討することも必要で、遺伝子関連の新しい治療法の開発につながる可能性がある」ということです。高尿酸血症や痛風治療の新時代が見えてくることも期待されます。

TH_LIFC005.JPG 多くの生活習慣病は肥満、内臓脂肪の蓄積が誘因となって発症することはよく知られていることです。またこれを予防し、治療するために、①食事療法(食生活を改善する)、②運動療法(適度の運動を続ける)、そして③薬物療法(検査値などをお薬で補正していく)の三つがあることもご存じの通りです。これらのうち、高血圧や糖尿病などに代表される病気を持っている方には、適切なお薬を処方し、栄養指導を通じて食生活の改善を図ることは当然の事として行われておりますし、もちろん当院でも実施していることです。しかし、②の運動療法については専門施設において以外では、系統だった指導が行われていない現状があります。具体的にどれ位の運動量を実施すればよいのか、つまりどのようなトレーニングプログラムを実践するのかという点があいまいであることが多いように思います。

 本年1月に東京で開催された第46回日本成人病(生活習慣病)学会では「職域における生活習慣病の予防・改善と運動療法」というシンポジウムが企画され、様々な報告がありました。たとえば、同じ運動を続けても十分な効果が得られる人とそうでない人がいるがこれには体質の遺伝的要因がある、しかし遺伝的に病気になるリスクが高くても計画的に運動をするとそのリスクをある程度軽減できることが明らかにされました。また具体的な事項のうち、一日の歩行時間が長い人ほど高血圧や糖尿病になる危険度や低下したことが明らかにされています。厳しい運動をするより息の切れない程度の有酸素運動がよいことも具体的なデータとして報告されています。

 以前私たちは、日本内科学会において、日常の運動をどのようにすれば効果的に体重コントロールができるか、というテーマで発表したことがあります(末廣美津子他:自主的な生活習慣改善目標設定による体重コントロールの有用性:第104回日本内科学会講演会、平成194月、大阪)。その概要は、日々の運動は他の人から指示されてするのではなく、自主的に目標を立てて実施するほうがより効果的であるというものでした。さらにその目標も、ただ「毎日、運動をするように心がける」「体重を減らすよう努力する」といった抽象的なものでは得られる効果は少なく、「毎日何時間以上歩く」や「毎日何の運動を何回する」など具体的で数値目標の含まれた計画を立てた人の方が確実に体重コントロールできたという結果でした。

 何事もそうですが、毎日継続することや、自分から進んで行うことが大切です。ぜひ無理のない体を動かす計画を考えてみて下さい。疑問に思われることがあればご相談に応じます。


糖尿病と認知症

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 高齢社会が進行して、認知症患者さんの急増が問題となっています。日本では、アルツハイマー病と呼ばれる脳細胞が変性して発症する疾患が約半数を占め、残りは脳梗塞などが原因となる脳血管性認知症およびアルツハイマー病と同じく脳細胞が変性するレビー小体病が多いとされています。

 日本のアルツハイマー病の患者数は約100万人とも言われ、65歳以上の10人に1人が発症の危険性を持っています。アルツハイマー病に罹患していて亡くなった人の脳細胞を調べると、アミロイド・ベータという異常たんぱく質が蓄積していることが解り、これが10年以上の時間をかけて脳細胞を死滅させていくことが、アルツハイマー病発症原因の主要な機序と考えられています。

 そこでこのアミロイド・ベータに対するワクチンがアルツハイマー病の予防接種として用いられないか現在、研究・開発が進行しています。またこれまで一種類しかなかったアルツハイマー病治療薬に加えて、昨年新規の治療薬が発売され、新たな薬物治療の展開が期待されています。

 ところで、高齢社会でもう一つの問題となる疾患に生活習慣病である糖尿病があります。糖尿病は血管を障害して、さまざまな合併症を発症させていくことはご存じの通りです。糖尿病と認知症との関係を考えるとき、糖尿病は脳梗塞の危険因子の一つですから、脳梗塞の後遺症による脳血管性認知症の誘因になることは容易に想像できます。

一方で、以前から糖尿病はアルツハイマー病発症の重要な危険因子の一つであることが解っていました。このことは昨年の11月に開催された日本認知症学会でも「糖尿病と認知症」という主題のシンポジウムとして取り上げられ、多くの新しい知見が報告されています。糖尿病発症前の糖代謝異常がある段階から認知症発症リスクが増加するという疫学的研究や、血糖値の高値が持続すると血液中の終末糖化産物の形成が進み、身体の酸化ストレスがアミロイド・ベータの沈着を促進するなど多くの報告がなされました。

 乱れた生活習慣が誘因で発症する糖尿病では、血糖をコントロールするインスリンが効きにくくなる「インスリン抵抗性」という状態が起こります。このため初期の糖尿病では血液中のインスリン量は増加している時期があるのですが、このインスリンの異常状態がアミロイド・ベータの沈着を促進することも解ってきました。またインスリンはアミロイド・ベータ除去にも関係している可能性も示唆されています。

 いずれにしても糖尿病におけるアルツハイマー病発症機序は複合的で一つの事象から説明できるものではありません。しかし糖尿病は認知症の大きな危険因子でもあることに間違いはなく、生活習慣改善を含めた適切な治療を続けていくことが重要です。


トマトダイエット

tomato2.jpg  トマトやトマトジュースがスーパーなどでバカ売れして品薄になっているそうです。2月の始めに「トマトにメタボ改善成分発見」というニュースが流れたためですが、これは京都大学の研究グループがアメリカの科学雑誌に報告したもので、ネズミにリノール酸の仲間であるトマトの一成分を4週間与えたところ、中性脂肪や血糖値が下がったという内容です。

 この報告は「以前からトマトには中性脂肪を下げる効果があることは分かっていたけれど、何の成分が原因でその効果が現れるかが不明であったが、今回それが解明された」というものであって、「トマトを食べ続けたら中性脂肪が下がってメタボリック症候群が解消される」ことまで証明されたわけではありません。

 最近、テレビのある番組で、メタボ体型のテレビ局関係者がトマトを食べ続けたら、体重が減った・・・という企画が放送されていました。その人がたとえダイエットに成功したのだとしても、そのようなことをした全ての人に当てはまる証拠がないことはいうまでもありません。以前に「バナナダイエット」が話題になって、この時はスーパーからバナナが無くなってしまったことがありましたが、今回も同じようなことだったと思います。

 メタボリックシンドロームを改善する、体重を減らす、中性脂肪をさげるためには、何か特別なものを敢えて大量に摂取するより、規則正しくバランスよく食事をして、運動をするなど一般的な生活習慣改善が第一であることはご存じの通りです。もちろんトマトは栄養豊富な食品ですから、バランスよい食事のなかに取り入れて頂ければよいのだと思います。

 当院では毎月一回、管理栄養士による栄養相談を実施しておりますので、もしよろしければ一度受けてみて下さい。


ASA.jpg アスピリン(薬品名はアセチルサリチル酸)という薬があります。昔から鎮痛薬や解熱薬として用いられてきましたが、服用している人のなかに出血症状が出現することがありました。その後よく調べてみると、アスピリンには止血に必要な血液細胞である血小板にあるシクロオキシゲナーゼ(COX)という酵素を阻害する作用があることが分かりました(右の図)。COXは血小板が固まって止血作用を発揮するのに必要なトロンボキサンという物質の生成に必要な酵素で、これがないと血小板は正常に機能しないため止血に作用しなくなることになり、アスピリンを大量に服用すると出血傾向がおこるという機序が明らかになったのです。話がややこしくなりましたが、アスピリンのこの副作用ともいうべき血小板機能抑制作用を逆に利用して、今では少量のアスピリンを、血管の中で血液が固まらないようにする、つまり血液をサラサラにする目的で投与するようになり、脳梗塞や心筋梗塞など血栓で血管が閉塞して起こる病気の予防に用いられています。

 このアスピリンが大腸ガンの発生を予防することが数年前から報告されていました。詳しい機序は明らかになっていない部分もありますが、どうも大腸ガンの中には先に説明したCOXを作っているものがあり、これをアスピリンが抑制して大腸ガンを予防しているようです。さらに昨年になって、アスピリンは大腸ガンだけではなく、食道ガン、胃ガン、膵臓ガン、肺ガン、前立腺ガン、さらに脳腫瘍の発症も減少させるという報告がなされ話題になっています。ただし詳しいことの解明はまだまだこれからですし、初めに説明したアスピリンによる出血という作用もありますから、むやみに服用することは避けるべきです。

 ところで、「頭痛にバファリン・・・」というCMで有名なバファリンという薬。これは市販薬で、医師の処方せんがなくても薬局で購入することができますが、バファリンはもともとアスピリン製剤です。現在発売されているいくつかのバファリン製品にはアスピリンの代わりにアセトアミノフェンなど他の物質が主成分になっているものがありますが、アスピリンが主成分のものもあります。もし痛み止めとして薬局で市販薬のバファリンを購入されるのでしたら、薬剤師さんによく相談して適切なものを選んでもらって下さい。もちろん最初から市販薬を購入されるのではなく、まず医院を受診して下されば診察をして適切な処方せんを作成するご相談をさせて頂きます。

「逆流性食道炎」という病気がありますが、これは胃液が食道に逆流して食道の粘膜に炎症をおこすものです。胃液は食べた物が胃にたまっているうちに消毒をするため強い酸性になっており胃酸といわれます。胃袋の壁はこの胃酸に耐えられるような構造になっています。しかし食道内壁の粘膜は本来、胃液が流れ込むことはないので、強い酸性の胃液にさらされると粘膜が傷害され、胸やけなどの症状が起こるのです。

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 普通は胃液が食道に逆流することがないように下部食道には括約筋があり、飲み込んだ食物が通るときやげっぷが出るとき以外は通路が閉じているしくみになっています。しかし何らかの原因でこの括約筋作用が低下すると「逆流性食道炎」が発症する要因となります。この現象を「胃食道逆流症(GERD)」といいます。構造的な問題でこの「胃食道逆流症」が起こるものの一つに「食道裂孔ヘルニア」という病気があります。食道裂孔とは胸部と腹部を隔てている横隔膜のうち食道が通る穴のことで、ヘルニアとは体の中の臓器が本来あるべき位置から脱出することです。「食道裂孔ヘルニア」は食道に続く胃の一部が食道裂孔から胸部の方に脱出している状態で、年齢とともにこの状態になっている人が多いといわれています。この状態になると下部食道の括約筋が作用しにくく、逆流がおこってしまいます。ちなみに「食道裂孔ヘルニア」に対しては手術などの外科的治療が必要になるようなことはほとんど無く、もしこれが原因で胸やけなど「逆流性食道炎」の症状が強いとき、胃酸を抑えるお薬による内科的治療が通常行われます。

 前置きが長くなりましたが、太っている人は「逆流性食道炎」による胸やけがよく起こるのでしょうか。太っている人は腹部の脂肪組織が胃を圧迫して逆流がおこりやすい、あるいは逆流の原因になる「食道裂孔ヘルニア」が起こりやすいということが欧米では報告されています。しかし日本人での疫学研究では肥満が逆流の原因になるという結論は得られていません。欧米人に比べて日本人では高度の肥満者が少ないことも影響しているかも知れません。

 しかし日本でも「逆流性食道炎」の人に食事指導など生活改善を行うようにすると胸やけなどの症状が改善したという報告もあります。また脂肪分の多い食事を続けていると食道粘膜の感受性が高まり、胸やけ症状が出やすいとも言われています。

 いずれにしても規則正しい生活などで、肥満をなくしていくと胸やけなどの症状がなどの症状がよくなることが期待されると思います。

今年11月に国際糖尿病連合が発行した資料によれば、20歳~79歳の成人における糖尿病人口は全世界で約36,600万人とみられ、今後も増え続けると予想しています。最も糖尿病人口が多い国は中国で9,000万人、次いでインドが6,130万人とみられており、日本は第6位の1,070万人と報告されています。このまま推移すると2030年には世界中の糖尿病人口は約55,200万人に達するという予測がなされています。

 我が国における20歳~79歳の成人人口は約9,500万人ですから、糖尿病人口1,070万人は一割以上、11.2%いることになります。

 

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 年齢別に見ると、グラフに示すように年齢に伴って糖尿病人口は明らかに増加する傾向がわかります。またこれらの糖尿病の人がいる地域別では都市部が農村部に比べて1.7倍多いことがわかりました。

 問題は糖尿病の人が大勢いるのに、このうち適切な治療を受けている人は半分以下であると推定されることです。糖尿病は体のどこかが痛いなどあまり自覚症状のないことが多く、健康診断などで糖尿病の疑いがあると指摘された人でも、ついついそのまま放置してしまうことが多いのだろうと推定されます。

 いうまでもなく糖尿病の治療目的は、自覚症状を改善することではありません。合併症として腎症で腎臓の機能が悪くなって最終的に人工透析を受けなければならなくなったり、網膜症で視力障害が起こったり、足の感覚がなくなって足が腐ってしまったりします。もっと問題なのは心筋梗塞や脳卒中といった死に直結する怖い病気を合併する場合が多いことです。これらのことを予防するため糖尿病を治療して、血液中の糖を適切にコントロールしておくことが大切になるのです。