医療あれこれ

2012年6月アーカイブ

 アミノ酸はタンパク質の構成成分で20種類あります。この度、血液に含まれるアミノ酸濃度のバランスを調べることによって、生活習慣病のメタボリックシンドロームを早期に発見することができる可能性のあることが、味の素や三井記念病院の研究チームにより発見され、国際肥満学会の医学雑誌に発表されました。

 アミノ酸の濃度バランスの変化から病気を診断する方法は、これまでにも「アミノ・インデックス技術」と呼ばれ、これまでにガンの診断ができるのではないかと研究が進められています。この技術を心臓や血管の病気を発症する最大の危険因子であるメタボリックシンドロームの診断に役立てようとするものです。

TH_LIFD024.JPG メタボリックシンドロームの診断には、内臓脂肪の蓄積があることを調べる必要があります。内臓脂肪面積を測定するには、腹部のCTスキャンなどを撮影する必要がありますが、メタボ検診で簡便に内臓脂肪蓄積をみる方法として、日本では健康飲料のテレビCMによく出てくる、お臍の周囲径を測定する基準が設けられています。男性では85 cm、女性では90 cmが内臓脂肪面積100 平方cmに相当することが多くのデータを基に決められ、これより多いと内臓脂肪蓄積ありと診断します。ちなみにこの男性 85 cm、女性 90 cmは不適切ではないかという指摘も多く見直しが検討されていましたが、今年度は公式にこの基準をそのまま使うことが決まっています。しかしこれで正確に内臓脂肪蓄積が診断されているかというと必ずしも完全ではありません。

 そこで、血液検査によって内臓脂肪蓄積が証明される方法が確立されれば、より正確なメタボリックシンドロームの診断が可能になることから、この臨床応用を目的として今回の「アミノ・インデックス技術」を使った方法の研究が開始されたのです。多くの人を対象として研究が進められ、血中アミノ酸バランス解析により内臓脂肪面積が特定されることが明らかになりました。

(詳しくは味の素のHPをご覧下さい。

http://www.ajinomoto.co.jp/press/2012_05_28.html


 これを実際の臨床に取り入れられるためにはもう少し時間がかかりますが、有用な方法と思われます。とくに明らかな肥満はないけれども実際には内臓脂肪蓄積があり、「かくれメタボリックシンドローム」と言われる人たちの判別に効力を発揮することが期待されています。

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「めまい」を訴える方が、特に高齢者によく見かけられます。一口に「めまい」といってもいろいろなタイプがあります。例えば、体がグルグル回っているような感じになる「回転性めまい」や、体がグラグラ揺れている、あるいはふらつく感じのする「動揺性めまい」などです。


 回転性めまいの原因として最も頻度が高いのは、「良性発作性頭位めまい症」と言われるものです。その名が示すとおり、頭の位置を変えたときにめまいが発生する良性の疾患です。めまいのため気分が悪くなり、吐き気や場合によっては嘔吐することもありますが、横になって安静にしているとすぐに症状が消失します。また、耳鳴りや聴力低下など、耳の症状を伴うことがないのが特徴です。原因として、耳の奥にあり体のバランスを取っている三半規管の異常という説があります。三半規管の中にある炭酸カルシウムでできた耳石がありますが、それが本来の位置からはずれて体のバランスを崩し、めまいという症状を起こすというものです。


 良性発作性頭位めまい症の治療は、「良性」ということば通り、安静にすることによって比較的早いうちにめまいはなくなります。最近では浮遊耳石置換法(エプリー法)といって、頭位を変換することにより三半規管の中で遊離した耳石を元にもどす方法も開発されています。


 同じく回転性めまいが生じる疾患でも、聴力低下や耳鳴り、あるいは耳が閉塞した感じなどを伴う場合は、内耳の病気が考えられます。メニエール病もその一つで、これに対してはステロイドホルモン剤などの薬物療法が行われます。


 また動揺性めまいは主として神経の異常で起こります。例えば小脳の異常です。小脳は身体の平衡感覚を保つ役割をもっています。小脳の働きにより、まっすぐに立っていたり、歩いたりすることができるのですが、この小脳に何らかの異常があると、酔っ払いがまっすぐに歩くことができないような状態になり、体のグラグラ感が出現してきます。


 その他、精神的なストレスから動揺性めまいを生じることもあり、自律神経のバランスが崩れたことによるものと考えられています。また何らかのお薬が原因でめまいが起こる場合や、うつ病などの精神神経疾患が基礎疾患として存在する場合もあります。


 良性発作性頭位めまい症などのように、自然によくなる場合を除いて、めまいの原因を調べることが必要になってきます。


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 医療を発展させていくためには、人の体やその周囲で起こっていることを肉眼的に見て観察するだけでは不十分で、新しい機器が必要になってきます。その中で、顕微鏡は感染症の原因となる微生物を発見したり、人体の細部を観察するため必要不可欠なものといえるでしょう。

 顕微鏡を初めて作ったのはオランダの眼鏡屋さんだったハンス・ヤンセンとその息子のツァファリス・ヤンセンとされており1590年のことです。後にイギリスの物理学者ロバート・フックは顕微鏡を使っていろいろな細胞を観察し、「顕微鏡図譜」を発行しています。右の図はそのフックが使ったとされる顕微鏡です。

顕微鏡の技術を使って、人体、動物、植物に関する多くの新しい事実を発見したのが、イタリアのマルチェロ・マルピーギという人です。1661年、マルピーギは、人体構造のうち、組織の毛細血管の中を流れる血液を直接観察しました。医療の歴史(9)で説明したように、1628年、ウィリアム・ハーヴェイが血液循環論を確立して、人の血管には動脈と静脈があることを初めて報告していますが、彼は動脈と静脈をつなぐ細かい網の目状の血管―毛細血管を発見することができませんでした。マルピーギによる毛細血管の発見はハーヴェイの血液循環論に決定的な証拠を付け加えたのでした。

その後、顕微鏡は細菌学の発展に大きく貢献します。細菌学や原生動物学の父とされているのが、オランダ人のアントニー・ファン・レーウェンフックという人です。フレーウェンフックは、もともと医学者でも科学者でもなかった人で、呉服屋さんだったそうですが、微生物や寄生虫などを細かく観察しています。しかし、彼自身は1723年に亡くなるまで、それらの発見を書物として著してはいませんでした。のちの人々が彼の業績を記録として残し今に伝えられています。

顕微鏡により微生物が人に発症する感染症の原因であることまでは判ってきました。しかしそれはバクテリア(細菌)までの発見で、細菌よりはるかにサイズが小さいウイルスはレンズを使った光学顕微鏡では見ることができません。ウイルスを詳しく観察するためには電子顕微鏡が必要で、20世紀になるまで待たなければなりませんでした。ちなみに黄熱病の研究で有名な野口英世は、黄熱病の原因が細菌であると考え、研究を続けていました。しかし実際はウイルスによるもので、光学顕微鏡を用いて研究を続けていた野口英世は黄熱病の病原体を発見することができないまま亡くなってしまったのです。


厚生労働省が今月発表した平成23年の調査結果で日本人の死因は、多い順に悪性新生物(ガン)、心疾患、肺炎となりました。肺炎が死因の第3位となるのは昭和26年以来のことです。長年、三大疾患の一つとされてきた脳血管疾患(脳梗塞や脳出血)は、わずかの差で第4位に転落しました。

肺炎は戦前には日本人死因のトップだった時期もありました。しかし衛生環境が改善し、また、よい抗生物質が使用されるようになったこともあり、昭和24年から昭和26年に第3位となった後、一時は第5位以下となりました。昭和50年から平成22年までは第4位でした。厚生労働省の担当者は「高齢化が進み、肺炎で亡くなるお年寄りが増えたのではないか」と推測しています。

平成22年まで第3位だった脳血管疾患は決して減ったのではなく、むしろ数的には増加しています。それよりさらに増加したのが肺炎で、その順位が逆転したのです。脳血管疾患が発症してもそれが直接原因で亡くなる方は増加しなくなったのは事実でしょう。そのかわり以前に脳血管疾患にかかったことのある方が歳をとられて、肺炎をおこして亡くなるという例がかなり増加したのではないかと思います。

death.jpg 図は厚生労働省が公開している日本人における死亡原因の年次推移を示すグラフです。昭和25年まで日本人の死因第1位は結核でした。グラフに示してある年より以前の戦前では毎年の調査結果は不明ですが、やはり結核が第1位の年が多く、先に説明しましたように肺炎が死因のトップだった時期もありました。結核はその後、よい抗結核剤が使用可能となり激減します。

 結核についで第1位になったのは脳血管疾患です。脳血管疾患のうち日本人は塩分の多い食事などで高血圧になる人が多く、これが原因で脳出血が多いという特徴がありました。しかし食生活の改善がすすみ、また健康診断などで高血圧が発見されてこれを治療するようになると脳出血は激減しました。そのため死因としての脳血管疾患全体の数は減少に転じました。

 脳血管疾患に代わって死因第一位になったのは悪性新生物(ガン)です。グラフで明らかなようにガンによる死亡は増加の一途をたどっています。次いで第2位を占めガンと同じく増加傾向にあるのが心筋梗塞などの心疾患です。これらの病気を予防する、あるいは早期に発見し治療することが重要です。

 ところで、これらの死因はすべて病気ですが、本来、病気にはかからない方がよいのは当然です。たとえ病気にかかってもそれが原因で死亡することがないようにしなければなりません。そうすると歳をとっていつか亡くなるときの死因は「老衰」と死亡診断書に書かれるわけですが、老衰は高齢者をのぞいて下位になっています。すべての人が健康に生きるようになると老衰が第1位となるはずで、常にこれをめざすのが私たち医療者の務めなのだと思います。

高齢者の便秘

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 便秘を訴えるお年寄りは多くいらっしゃいます。厚生労働省の調査でも、65歳以上の人では、人口千人中、男性で76.5人、女性で96.1人とされていて、65歳以下の人に比べて明らかに効率です。

 疾患としては、明確な便秘の定義はありません。一般的には、排便回数の現象、排便量の減少、便が硬いなどの症状があるものをいいます。しかし腹痛やお腹が張るなどの症状を伴う場合や、排便時に強くきばらないと排便できないような状態、排便が不十分で便が残ったような感じが強い場合などさまざまです。

 分類としては、その時だけの急性便秘と、常に症状が続く慢性便秘の二つに分けることができますが、便秘の発生する機序でみると、腸が閉塞しかかっている腫瘍や炎症などによるもの(器質的便秘)と、腸の動きが鈍くなっているもの(機能的便秘)に分類することができます。その他、神経疾患などの病気の合併症状として便秘がみられることもよくありますし、ある種のお薬(例えばうつ病の薬や精神安定剤など)の中には腸の動きを抑制して便秘という副作用が発生するものもあります。

 いずれにしても、高齢者は、日々の運動不足や日常生活動作が若い人に比べて少なくなっていますから、腸の運動や緊張が低下し、便秘になりやすいと思われます。また、大腸の知覚が低下し、便がたまっているのに便意を感じない。そのため便が固くなりやすいことや、腹圧が弱くなって排便しにくい状態をより悪くすることも便秘の要因として考えておく必要があります。

 便秘の治療ですが、原因となる疾患がある場合はまずこれに対する処置が必要です。またお薬が原因である便秘の場合、このお薬を中止し、ほかのものに変更するなどの対処を考えます。明らかな原因がなく、腸の動きが鈍くなっている機能的便秘の場合は、まず生活習慣を変えてみることが重要です。具体的には、毎日、朝食後に排便をする習慣をつける、食物繊維の多い食事や、水分をしっかり摂る、さらに腹圧を少しでも高めるような腹筋や腹式呼吸などを試みてみることも有効なことが多いと思われます。

 これらの一般療法で、便秘の改善がない場合、便秘薬を用いた薬物療法ということになりますが、先に説明しましたようにいろいろなタイプの便秘がありますので、便秘の状況やその他の症状を考慮して薬剤を選択することが重要です。